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「介護保険施設等に対する監査マニュアル」について(通知)
老発0405第3号

「介護保険施設等に対する監査マニュアル」について(通知) (老発0405第3号)

発出日:令和6年4月5日
更新日:令和6年4月5日
老発0405第3号
令和6年4月5日
 
各 
都道府県知事
 
市(区)町村長
  殿
 
厚生労働省老健局長
(公印省略)
 
「介護保険施設等に対する監査マニュアル」について(通知)
 
 
介護保険施設等において不正請求などの不正が認められる場合や疑いがある場合には、指定権者は監査権限を行使したうえで事実関係を的確に把握し、公正かつ適切な措置の検討を行い、法律に則った手続に従って行政処分を行うまでの一連の事務を関係機関と連携を行いつつ迅速に行うことが重要です。
このため、令和4年度老人保健健康増進等事業「指定介護サービス事業所等に対する「監査マニュアル(仮称)」の策定に関する調査研究事業」においてとりまとめられた「監査マニュアル(仮称・案)」について、監査実績が少ない自治体の職員も含めて活用いただけるよう、この度、全国的に監査の内容を平準化し監査業務の迅速化に向けて留意すべき事項について加筆し「介護保険施設等に対する監査マニュアル」として策定しました。
また、令和5年12月22日に閣議決定された「令和5年の地方からの提案等に関する対応方針」においても、「介護保険法に基づく徴収金(22条3項)の徴収の実効性を高めるための方策については、監査の効率化及び迅速化の観点も含めて検討し、令和5年度中に結論を得る。その結果に基づいて必要な措置を講ずる。」とされたところです。
各都道府県等において監査事務に対応する場合は、本マニュアルを活用いただくとともに、不正請求事案への対応は指定権者と保険者の情報共有が重要であり、また、高齢者虐待事案など人格尊重義務違反への対応は高齢者虐待防止担当部局と連携を図り監査を実施する必要があることから、関係する部局に併せて周知いただきますようお願いいたします。
 
 

 
 
 
介護保険施設等に対する監査マニュアル
 
 
 
 
令和6年4月
 
厚生労働省老健局
 
 
はじめに
 
介護保険施設等に対する指導や監査については、適正な制度運用を図る観点から極めて重要であり、その実施にあたり、指導は介護保険施設等に対する支援として行うことを、監査については、不正等の疑いが発覚した際に、事実関係の的確な把握を行うことを基本としています。
とりわけ監査においては、その結果によっては行政手続法に基づく不利益処分を伴うことが想定されるため、的確な事実関係の把握及び適切な手続により実施することを求められています。
その一方で、監査を行うための実施要綱等は策定されているものの、現在まで監査の実施や行政処分を実施した経験がなく、監査や行政処分を行う際の実施方法等が定まっていないといった自治体も少なくないことから、本マニュアルでは運営指導や通報等より監査を開始する段階から、行政処分に至るまでの業務の流れ、留意点などをまとめていますので、実際に監査を行う際の参考として頂ければ幸いです。
なお、高齢者虐待に関する対応については、別途発出している「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について(厚生労働省老健局)」も参照してください。
 
 
 
介護保険施設等に対する監査マニュアル
 
目次
 
1.
監査業務の全体の流れ
1
1.1.
監査の目的
1
1.2.
業務全体の流れ図
2
2.
監査開始前について
3
2.1.
監査を実施する状況
3
2.2.
通報に関する事項について
3
2.3.
監査実施前に入手した情報の取扱いについて
4
2.4.
監査実施前の準備
4
3.
監査(立入検査)について
5
3.1.
立入検査と出頭
5
3.2.
実施通知
5
3.3.
人格尊重義務違反が疑われる、もしくは認められる場合
6
3.3.1.
高齢者虐待事案に対する介護保険法に基づく指導監督の考え方
6
3.3.2.
人格尊重義務違反に関する介護保険法に基づく指導監督の考え方
6
3.3.3.
人格尊重義務違反にかかる監査の実施にあたっての留意事項
7
3.4.
不正請求が疑われる、もしくは認められる場合
8
3.4.1.
不正請求事案に対する介護保険法に基づく指導監督の考え方
8
3.4.2.
不正請求における返還金の徴収の要請と消滅時効
8
3.4.3.
返還金の算定(保険者と指定権者の情報共有)
10
3.4.4.
減算規定がある場合の返還額の考え方
10
3.4.5.
「不正の手段による指定」が処分理由の時の返還額の考え方
10
3.4.6.
過誤調整と消滅時効
11
3.5.
監査における問い合わせ
12
3.6.
監査を実施できない場合
12
3.7.
事業者による処分逃れ防止のための対策
12
3.7.1.
廃止届の事前届出制
12
3.7.2.
立入検査中の廃止届に関する制限
13
3.8.
警察捜査との兼ね合い
13
4.
監査後の対応
14
4.1.
監査後の対応の程度の決定
14
4.2.
行政上の措置の違い
14
4.2.1.
行政指導
14
4.2.2.
勧告
15
4.2.3.
命令
15
4.2.4.
効力の一部停止
15
4.2.5.
効力の全部停止
16
4.2.6.
指定取消
16
4.2.7.
行政処分に伴う公示
16
4.3.
処分事由の認定について
17
4.3.1.
不正とは
17
4.3.2.
故意、重過失、軽過失とは
17
4.3.3.
不正認定について
18
4.4.
処分程度の考え方
19
4.4.1.
行政処分程度の決定にあたっての基本的考え方
19
4.4.2.
処分基準の作成について
22
5.
業務管理体制の特別検査
23
5.1.
業務管理体制とは
23
5.2.
業務管理体制の検査
24
5.3.
特別検査要請時の留意点
25
5.4.
特別検査の概要
26
5.5.
連座制について
26
6.
行政手続法にのっとった手続
29
6.1.
行政手続法にのっとった手続の重要性
29
6.2.
聴聞・弁明の機会の付与
29
6.2.1.
聴聞・弁明の機会の付与とは
29
6.2.2.
聴聞手続の流れ
30
6.2.3.
聴聞決定予定日について
31
6.2.4.
聴聞・弁明の機会の付与に関するQ&A
32
6.3.
不利益処分の理由の提示
35
6.3.1.
不利益処分の理由の提示とは
35
6.3.2.
理由の提示のあるべき姿
35
6.3.3.
関連判例
35
6.3.4.
公益通報者の保護
36
7.
処分後の業務
38
7.1.
指定取消等を行った場合の利用者の移行について
38
7.2.
高齢者虐待が認められた事業者への措置
38
7.3.
不正請求における詐欺罪の立件という視点について
38
7.4.
欠格事由該当者の共有について
38
 
 
 
1.  監査業務の全体の流れ
1.1. 監査の目的
監査の実施における根拠条項については、各サービスにより条項が異なります。例えば、居宅サービスの場合、介護保険法第76条第1項において、「都道府県知事又は市町村長は、居宅介護サービス費の支給に関して必要があると認めるときは、指定居宅サービス事業者若しくは指定居宅サービス事業者であった者若しくは当該指定に係る事業所の従業者であった者(以下この項において「指定居宅サービス事業者であった者等」という。)に対し、報告若しくは帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、指定居宅サービス事業者若しくは当該指定に係る事業所の従業者若しくは指定居宅サービス事業者であった者等に対し出頭を求め、又は当該職員に関係者に対して質問させ、若しくは当該指定居宅サービス事業者の当該指定に係る事業所、事務所その他指定居宅サービスの事業に関係のある場所に立ち入り、その設備若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる。」と規定されています。
また、「介護保険施設等の指導監督について」(令和4年3月31日老発0331第6号厚生労働省老健局長通知)別添2「介護保険施設等監査指針」(以下「監査指針」という。)第2監査方針にも記載されていますが、監査は、人員基準違反、運営基準違反、不正請求、不正の手段による指定、高齢者虐待、もしくはこれらの疑いがある場合には、対象の介護保険施設等に対して、報告若しくは帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、出頭を求め、又は当該職員に関係者に対して質問させ、若しくは当該介護保険施設等1に立ち入り、その設備若しくは帳簿書類その他の物件の検査を行うことにより、事実関係を的確に把握し、公正かつ適正な措置をとることを主眼として実施することが求められています。
 

 
1 指定居宅サービス事業者、指定地域密着型サービス事業者、指定居宅介護支援事業者、指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、指定介護療養型医療施設、指定介護予防サービス事業者、指定地域密着型介護予防サービス事業者、指定介護予防支援事業者、第一号事業指定事業者
 
1.2. 業務全体の流れ図
監査業務全体の流れは、おおよそ以下のとおりに整理することができます。
図表1:監査業務全体の流れ図
 
図表1:監査業務全体の流れ図
 
2.  監査開始前について
2.1. 監査を実施する状況
監査を行う契機は、監査指針に記載されており、例えば、「介護保険施設等の指導監督について」(令和4年3月31日老発0331第6号厚生労働省老健局長通知)別添1「介護保険施設等指導指針」に基づく運営指導(以下「運営指導」という。)において当該事実が確認された場合には、監査を行うことを検討し、検討結果により監査を行うと決定した際には、機動的に監査を実施してください。
なお、「監査指針 第2 監査方針」にも記載されているとおり、以下の場合に都道府県または市町村が、当該介護保険施設等に対し報告もしくは帳簿書類の提出もしくは提示を命じ、出頭を求め、または当該職員に関係者に対して質問させ、もしくは当該介護保険施設等に立ち入り、その設備もしくは帳簿書類その他の物件の検査を行い、事実関係を的確に把握し、公正かつ適切な措置をとることを主眼とします。
・ 人員、施設及び設備並びに運営に関する基準に従っていないと認められる場合、もしくはその疑いがあると認められる場合(このマニュアルでは人員基準違反、運営基準違反と記載しています)
・ 介護報酬の請求について不正を行っていると認められる場合、もしくはその疑いがあると認められる場合(このマニュアルでは、不正請求などと記載しています)
・ 不正の手段により指定等を受けていると認められる場合、もしくはその疑いがあると認められる場合(このマニュアルでは、不正の手段による指定と記載しています)
・ 利用者等について、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(以下「虐待防止法」という。)に基づき市町村が虐待の有無の判断を行った場合、もしくは高齢者虐待等により利用者等の生命又は身体の安全に危害を及ぼしている疑いがあると認められる場合(このマニュアルでは、人格尊重義務違反、もしくは高齢者虐待として記載しています)
 
2.2. 通報に関する事項について
監査は「監査指針 第3 監査対象となる介護保険施設等の選定基準」に記載されているとおり、通報・苦情・相談等に基づく情報や、国民健康保険団体連合会(以下「国保連」という。)、地域包括支援センターへ寄せられる苦情など、様々な情報から必要があると認める場合に立入検査等により実施します。
特に利用者本人、利用者家族、また施設従事者による通報の場合、その内容について十分に精査することが重要となります。
また、通報内容の事実の確認にあたっては、それが虚偽または過失によるものでないか精査を行いますが、施設・事業者に通報者を特定されることがないように調査を行うなど、通報者の立場の保護に配慮することが必要です。
通報によってもたらされた情報が不十分な場合には、監査をすべきか否かの判断が難しくなることが想定されます。通報の時点で、後々の調査に活用することを意識しながら詳細に情報を聞き取り、そのうえで不足している情報、もしくは真偽が明らかではない情報については、監査の中で確認していくことが必要となります。
通報時には通報者が高揚や混乱をしている場合も多いため、こちらから能動的に「いつ、どこで、誰が、なにを、なぜ、どのようにした」といった、「5W1H」を意識した具体的な情報を聞き出します。そのために、事前に庁内で通報時のヒアリングシートのようなものを作成しておくことも有効です。
また、後日における事実確認の突合のために、可能な限り通報者の連絡先を確認することも有用です。
なお、高齢者虐待が疑われる通報の場合は、虐待防止法第21条に基づき、施設等所在地の市町村に通報する義務が発生し、高齢者虐待の担当部局と連携・協働することが求められます。
 
2.3. 監査実施前に入手した情報の取扱いについて
通報時には、通報者から帳簿書類や音声などの証拠類を提示されることが少なくありません。ただし、このような場合には、その取扱いについて公益通報者保護法の規定内容を十分に考慮する必要があります。
また、不正請求、不正の手段による指定、人格尊重義務違反(以下「不正等」という。)に該当するかの判断は、監査による立入検査等を実施し、事実を確認することによって、はじめて行うことが可能になります。監査開始前に通報者から受け取った証拠類のみに基づいて軽々に不正等を認定することはできませんので、注意してください。
実際、受け取った情報自体の信ぴょう性を確認する必要があることや、また多くの場合は通報者保護の観点から受領した証拠類について、事業者の内容に関することを事業者に直接確認することは難しいことから、監査の際に関係書類等を確認していくことで、事前に受領した証拠類の裏付けをしていくことになります。
 
2.4. 監査実施前の準備
監査を実施する前の準備として、運営指導や通報等から得た事前情報を基に、立入検査当日の手順、提出を求める書類、聞き取りが必要な職員、聞き取り内容をあらかじめ想定(確定)しておくことが大切です。
 
3.  監査(立入検査)について
3.1. 立入検査と出頭
介護保険法上の監査では、事業所等への立入検査を行うことが認められています。
普段行われている運営指導は、介護保険法第23条及び第24条の規定に基づき実施されるものです。運営指導では、文書や物件の提示もしくは提出の求め、質問等の調査を通じて集められた事業所等に関する情報を基に、指導を行うこととなります。
一方、立入検査は、監査を行う端緒以外にも新たな不正もしくは不正と疑われる事項がないか、また監査を行う端緒に関する関係書類等の事実が隠ぺい、捏造されていないか、などを考慮しながら、行うことが適切です。
事業所等に対する出頭の求めについては、立入検査だけでは確認できなかった事実について、事実確認等の補完調査が必要になった場合に求めることが望ましいと考えられます。
さて、立入検査の際には、証拠の収集や事業所の職員等(以下「関係者」という。)から証言の聞き取りを行うことになりますが、検査日が複数日にまたがった場合には、証拠の隠ぺいや捏造などが行われて確実な証拠保全ができず、的確な事実関係の把握が難しくなるリスクが高まります。証拠保全の観点からも、物的証拠となりうる関係書類は可能な限り監査当日に取得する必要があります。例えば、行政側が現地で原本の写しを取るとか、または事業所より一時的に関係書類を預かることが考えられます。
また、関係者からの聞き取りは一人一人個別に事情を聞き取り、聞き取り調書などに記載するとともに、聞き取った内容に齟齬をきたさないよう、その内容については、関係者に確認を行うことが必要です。また、その上で内容に相違ない旨について署名を取っておくことが有用です。
さらに、後日行うであろう調査内容の精査等のために、対象者の同意が得られる場合には、聞き取り内容を録音することも可能です。
 
3.2. 実施通知
監査の実施を決定した場合には、「監査指針第4監査方法等1(1)実施通知」のとおり、事業所に対し、監査開始時に文書にて「実施通知」を行う必要があります。この通知は事前に行う必要はなく、監査当日でも構わないとされています。また、運営指導の実施中に監査に移行した場合には、口頭により当該事項を含め、監査を実施する旨を通告したうえで監査を行います。
口頭により監査を実施する旨通告した場合には、介護保険法に基づいた監査であることを示すために、口頭で通告した内容を実施通知として文書により作成し、改めて事業所に通知することが望ましいです。
なお、監査の実施について事前に連絡をした場合、施設長等が施設に在席している状態で監査が実施できるというメリットがある一方、証拠隠滅などが行われるリスクがあります。証拠隠滅のリスクを軽減するために当日抜き打ち検査を行う場合は、施設長等が不在である場合も想定しながら準備を進める必要があります。
また、実施通知は監査指針に記載されている内容を通知すれば足りるとされており、監査を実施する理由は、証拠保全や通報者保護の観点からも伝える必要はありません。
 
3.3. 人格尊重義務違反が疑われる、もしくは認められる場合
3.3.1. 高齢者虐待事案に対する介護保険法に基づく指導監督の考え方
高齢者に対する虐待は、介護保険法第1条に規定する高齢者の尊厳を否定する行為であり、排除されるべき行為です。特に虐待防止法第2条第5項に規定する「養介護施設従事者等による高齢者虐待」は、介護保険法に基づく指定等を受けた介護保険施設等における行為としてあってはならない、高齢者の人格を否定した行為です。
そのため介護保険法上の行政処分の事由である「人格尊重義務違反」に該当することから、監査により当該行為の事実が認められた場合は指定取消等の行政処分を行うことを検討する必要があります。
養介護施設従事者等による入所者や利用者への虐待が発見された場合、発見者は速やかに市町村に通報することが義務付けられており(虐待防止法第21条)、通報等を受けた市町村は、養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護を図るため、老人福祉法又は介護保険法の規定による権限を適切に行使するものとされていることから(虐待防止法第24条)、虐待の事実の確認はそれらの法律の権限を行使して行います。
 
3.3.2.人格尊重義務違反に関する介護保険法に基づく指導監督の考え方
介護保険法における介護保険施設等による利用者の人格尊重の義務は、全てのサービスに規定されています。つまり、人格尊重義務は、実際に虐待を行った従業者等ではなく、施設開設者・事業者に課されているということです。
このことから、虐待防止法に基づく通報や介護保険法に基づく権限による運営指導等により高齢者虐待の事案(疑いを含む)があれば、介護保険法に基づく監査(立入検査等)を行い、事実関係の確認を行う必要があります。
したがって、高齢者虐待の担当部局のある市町村と介護保険施設等の指定権者が同一自治体である場合は、当該自治体内での担当部署同士の連携が必要となり、事案が生じた場合は協働して対応方針を決定します。
これに対し、高齢者虐待の担当部局のある市町村と介護保険施設等の指定権者が異なる場合においては、両方の自治体間にて迅速に情報共有を行い(虐待防止法第22条)、虐待防止法に基づき得られた情報を踏まえ、適宜協議等連携を行い、介護保険法に基づく監査(緊急時は老人福祉法第11条に基づく高齢者の保護(措置)も含む)を同時又は協働で実施することを検討する必要があります。
 
3.3.3. 人格尊重義務違反にかかる監査の実施にあたっての留意事項
高齢者虐待については、同じタイミングで警察の捜査が入るケースが想定されますが、後述する「3.8警察捜査との兼ね合い」に記載したとおり、介護保険法の規定に基づく監査は警察捜査とは視点が異なります。
それに対し、監査を行う時点で警察の捜査が入っておらず、監査による事実確認の結果、犯罪があると思料するに至ったときは、警察に告発する義務が課せられます(刑事訴訟法第239条2項2)。
監査による事実確認の結果、高齢者虐待が有りと判断された際は、後述する「4.4処分程度の考え方」も参考としてください。
なお、事業所や施設において人格尊重義務違反の疑いがある場合、介護保険法第23条又は第24条の権限を行使し、運営指導を無通告(当日の実施通知は必要)で行うことも可能ですが、当該権限は立入検査権限が規定されておらず、相手方に事業所または施設内への立入を拒まれた場合は事実関係が確認できなくなります。また、介護保険法第23条及び第24条の権限によれば、検査までは行わないため、厳密な事実関係の確認はできないものと考えられます。
また、介護保険法第76条等の立入検査等の規定の中では、「(自治体の)当該職員による関係者に対する質問」が可能ですが、介護保険法第23条及び第24条ではそのような規定はないことから、直接当該事業者に関係しない者からの情報は得ることができません。このように、人格尊重義務違反の疑いがある場合における対応については、介護保険法上の権限の規定の内容を踏まえて対処することが求められます。
 

 
2 刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第239条第2項「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」
 
3.4. 不正請求が疑われる、もしくは認められる場合
3.4.1. 不正請求事案に対する介護保険法に基づく指導監督の考え方
不正請求とは、法令や基準に違反し、かつそれを偽って報酬を請求することです。具体的には、架空請求等の請求行為をいいます。例えば、実際にはサービスを行っていないにもかかわらず、サービスを行ったように装い、報酬請求を行った場合や、一定の人員基準を満たすことが要件となっている加算について、人員が不足しているにもかかわらず、人員は満たされていることを装い加算要件を満たすものと偽って請求をした場合、また、サービスの所要時間によって単位数が定められている場合に実際にサービスを行った時間に対応する単位数を超えた単位数により請求した場合等がこれに当たります。
このような不適切な請求行為が認められた場合や疑われる場合、偽りその他の不正な行為かの判断について監査において事実関係を確認し、不正請求であると認定した場合は指定取消等の行政処分を行うことを検討する必要があります。さらに、後述するとおり、介護保険法第22条第3項に基づき事業所に対し不正利得の返還請求を行うことになります。
一方で、監査の結果によっては、不正ではないという判断に至る場合もあり得ます。不正請求とは認定せずに、確定した介護給付費の過誤について返還を求めるにとどまる場合は、事業所、保険者及び国保連との間で、その差額に関する調整を行うことになります。(不正請求の認定に際しては、「4.3.3不正認定について」も十分に参考にしてください。)
実務上は、この調整に関する一連の事務手続について、「過誤調整」と呼ぶことがあります。この言葉自体はあくまで通称であり、法令上明確に規定されているものではありません。ただし、本マニュアルでは、不正請求に対する返還命令に相対する言葉として、不正請求と認定されず、事業者が誤りのあった審査決定済の請求を取り下げて、改めて正しい請求を行う場合の手続のことを、「過誤調整」と呼ぶこととします。
過誤調整については、あくまで事業所が保険者及び国保連と自主的に調整を行うことを指す言葉であり、監査主体や保険者などの自治体が命ずるものではないことに留意が必要です。過誤調整を行うよう指導した結果、それにもかかわらず指導に従わなかったという場合については、当該行政指導に従わなかったことのみをもって、後になって不正請求と判断し、返還を求める(不利益処分)ことはできません。このため、単なる誤りか不正かの判断は、事実関係を踏まえ、様々な角度から検討し慎重に行うべきです。
 
3.4.2. 不正請求における返還金の徴収の要請と消滅時効
不正請求の場合は、保険者(市町村)は返還させるべき額を不正利得として徴収することができます。その際、保険者(市町村)は返還させるべき額のほかに、返還させるべき額に40%を乗じて得た額を徴収することが認められています(介護保険法第22条第3項)。
監査の結果、不正請求であると認定された場合には、指定権者から保険者にその旨を連絡のうえ、保険者と事業者の間で返還額の確定を行い、保険者から事業者に対して返還請求を行うことになります。
しかし、期日までに事業者が返還を行わず滞納した場合には、普通地方公共団体の長は、期限を指定したうえで督促を行うことになります(地方自治法第231条の3第1項3)。
この返還請求権の法的性格は強制徴収公債権とされており、督促しても事業者が納付しない場合には、債務名義(民事執行法第22条4)を取得することなく、滞納処分を行うことが認められています。具体的には、財産の差押等の一連の手続を通じて、不正に取得した保険給付(加算金含む)相当の金額を強制徴収することとなります(介護保険法第144条、地方自治法第231条の3第3項5)。
当該債権の順位は、国税及び地方税の次に相当するものであり、私債権よりも優先されます(介護保険法第199条)。また、当該債権の消滅時効は2年です。ただし、不正請求の場合には、徴収金の督促によって時効更新の効力が生じます(介護保険法第200条)。
 

 
3 地方自治法(昭和22年法律第67号)第231条の3第1項「分担金、使用料、加入金、手数料、過料その他の普通地方公共団体の歳入を納期限までに納付しない者があるときは、普通地方公共団体の長は、期限を指定してこれを督促しなければならない。」
4 民事執行法(昭和54年法律第4号)第22条「強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
三の三 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
四 仮執行の宣言を付した支払督促
四の二 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)の規定を準用することとされる事件を含む。)、家事事件若しくは国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成二十五年法律第四十八号)第二十九条に規定する子の返還に関する事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決(家事事件における裁判を含む。第二十四条において同じ。)
六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)」
5 地方自治法(昭和22年法律第67号)第231条の3第3項「普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入(以下この項及び次条第一項において「分担金等」という。)につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該分担金等並びに当該分担金等に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。この場合におけるこれらの徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。」
 
3.4.3. 返還金の算定(保険者と指定権者の情報共有)
不正請求の場合は、監査主体である指定権者は不正の認定を行うために、また保険者である市町村は命ずる返還金を確定するために、それぞれ返還金の算定を行う必要があります。
ただし、あくまで事業者に対しては、保険者が自自治体分の返還金の徴収命令を行うこととなります。したがって、指定権者と保険者が異なる場合、もしくは複数の自治体(保険者)の被保険者がその事業所を利用している場合には、指定権者は関係保険者に対して、不正利得の徴収を行うよう要請することになります。
介護保険法第22条第3項に基づいて徴収する不正請求に関する徴収金の債権については、介護保険法第200条の規定により消滅時効が2年であるため、返還額は不正請求と認定した介護報酬を当該事業所が受領した日に注意して算出する必要があります。特に保険者において返還請求額の算出に時間を要するため、債権が消滅時効にかからないよう、指定権者は監査開始以降、できるだけ迅速に保険者に情報を共有するよう努めてください。
 
3.4.4. 減算規定がある場合の返還額の考え方
人員基準欠如等の減算規定があり、かつ減算せずに請求した結果、不正請求として認定されるような場合については、基本報酬全額ではなく、原則として、減算分のみの報酬返還を求めることになります。この場合、介護保険法第22条第3項に基づく加算金については、減算分に対して100分の40を乗じて得た額となります。
 
3.4.5. 「不正の手段による指定」が処分理由の時の返還額の考え方
不正の手段による指定が指定取消理由である場合については、「本来指定することができない事業者を指定した」という瑕疵ある行政処分を取消すことになるため、指定時に遡って報酬の返還を求めることになります。
一方、不正の手段による指定はあったが指定取消までは行わずその効力停止にとどめたような場合については、瑕疵は存在したけれども取消すまでには至らない程度のものであったと判断したことになるため、指定時に遡って報酬の返還を求めることはできません。
 
3.4.6.過誤調整と消滅時効
不正請求を認定して不正利得の返還請求を行うのではなく、過誤調整にて対応する場合、保険者は事業者に対しすでに支払った請求額と適正な請求額の差額を計算したうえで、その差額の返還を求めることになります(民法第703条)。
この返還請求権の消滅時効は5年となります。ただし、納入の通知及び督促をすることで、時効の更新をすることが可能です(地方自治法第236条第1項、同条第4項)。
実際にも、運営指導や監査などを行った結果、不正請求とは認定せず過誤調整を行う場合、まずは指定権者ないし事業者から保険者にその旨を連絡します。次に、保険者と事業者の間で返還額の確定を行ったうえで、国保連を通じて事業者が過誤調整を行います。ただし、事業者が事業廃止等を行う場合には、保険者から事業者に対して返還請求を行います。
期日までに事業者が返還を行わない(滞納した)場合には、普通地方公共団体の長は期限を指定して督促を行うことになります(地方自治法第231条の3第1項)。ただし、督促を行ったうえで、事業所(債務者)が無資力又はこれに近い状態にある等の場合には、履行期限を延長する特約を結んだり、地方自治法上の債権回収のための処分等を行うことができます。その際、当該債権の金額を適宜分割して履行期限を定めること(分割納付)も可能です(地方自治法施行令第171条の6)。
また、督促を行ったにもかかわらず、特段の理由がなく返還に応じない場合には、債務名義(民事執行法第22条)を取得したうえで、強制執行することになります。
ただし、監査を行った結果、不正請求と認められず、過誤調整として対応を行う場合に、事業所が知識不足によって過誤調整の進め方を理解していないときには、保険者ないし国保連と調整することなどを事業者に伝えるといった対応を行うことになります。
 
3.5.監査における問い合わせ
情報を精査していくうえで、関係施設、事業所、又は個人に質問を行うことがあります。
介護保険法上は、対象者に対し報告や帳簿書類の提出・提示を命じたり、出頭を求めたり、もしくは立入検査を行うことが認められており(介護保険法第76条等)、例えば利用者の入院期間についてなど、事実認定に際して「何を立証したいのか」を明確にしたうえで、必要に応じて利用者、国保連、及び医療機関などへ質問することも可能です。
ただし、対象者が協力について消極的なケースも考えられます。また、質問先や自治体によっても必要となる手続が異なることに留意が必要です。
 
3.6. 監査を実施できない場合
事業者が監査を忌避した場合には、指定取消、指定の効力の一部又は全部停止の対象となります(介護保険法第77条第1項第7号等)。事業者に監査(立入検査を含む)を忌避された場合には、上記について説明を十分に行ったうえで対応してください。
なお、監査を忌避された場合には、上記の行政処分に加えて、30万円以下の罰金が科せられます(介護保険法第209条第1号)。
また、監査の忌避とは言えないものの、事業所を何度訪問しても無人である、書面を送付しても返答がないといった理由で監査が行えない、いわゆる幽霊事業所に対しても、書面による連絡を複数行うなどの事実を積み上げたうえで、監査忌避と同様に扱うことが考えられます。
 
3.7. 事業者による処分逃れ防止のための対策
監査の経過の中で、事業者が処分から逃れることを目的として、介護サービス事業の廃止届を提出することがあります。こうした処分逃れを防止するために、廃止届の提出については、以下のような制限があります。
 
3.7.1. 廃止届の事前届出制
事業の廃止の届出は、廃止日の1か月前までに行う必要があります(事前届出制)(介護保険法第75条第2項等)。行政手続法第37条6に規定されているとおり届出は形式上の要件に適合している場合は受け取りを拒否できませんが、介護保険法の廃止届は「廃止の日の一月前までに届け出なければならない」とされていることから、廃止の日の一月前までの届出内容となっていない場合は、その効果は発生しないため補正を求める必要があります。
そのため、廃止届が提出されても、少なくとも1か月間は事業所が存在することになり、その間に指定取消等の行政処分を行うことが可能です。これは、利用者のサービスを確保するために設けられた時間でもあります。
したがって、立入検査中等に廃止届が提出された場合には、自治体はそれを受け取ったうえで、1か月後の事業所の廃止に向けて何を行うべきかについて、早急に検討する必要があります。
ただし、立入検査中等に廃止届が提出された場合でも、立入検査等を止める必要はありません。
 

 
6 行政手続法の関係条文は巻末に掲載(以下同じ)
 
3.7.2. 立入検査中の廃止届に関する制限
監査において確認した事実関係をもとに処分の程度を検討することになりますが、取消処分の可能性がある場合は、立入検査が行われた日から10日以内に聴聞決定予定日を事業者に通知することにより、立入検査の日から聴聞決定予定日7までの間に廃止届を提出した事業者については、相当の理由がある場合を除いて、指定・更新の欠格事由に該当することになります(介護保険法第70条第2項第7号の2等)。
聴聞決定予定日は、立入検査を行った日から聴聞の要否が決定すると見込まれる60日以内の特定の日を通知します。
また、立入検査を複数回行う場合については、必ずしも初回の立入検査日を起算日とする必要はなく、立入検査の状況等を勘案して、起算日となる立入検査日を決定します。
このように、聴聞決定予定日については、再度の立入検査を行うことで、あらためて通知を発出することができますが、当該通知を乱発することで、事業者の事業廃止に関する権利を不当に阻害することのないよう、十分留意してください。
 
3.8. 警察捜査との兼ね合い
警察の捜査が監査と同時期に入ることも考えられますが、警察捜査と介護保険法の監査とでは視点が異なります。
例えば前述「3.3.3人格尊重義務違反にかかる監査の実施にあたっての留意事項」のとおり、高齢者虐待では事業者全体の関与などの組織性の有無、また再発防止及び未然防止策の確認が重要ですが、これらは警察捜査とは異なる視点です。
そのため警察の捜査状況を注視しつつも、あくまでも監査の中で確認すべき事項があることに留意が必要です。
 

 
7 聴聞決定予定日の詳細については、「6.2.3聴聞決定予定日について」に後述している。
 
4.  監査後の対応
4.1. 監査後の対応の程度の決定
監査の結果、不正は認められないが、運営基準等の適合性が不十分である場合は、行政指導(必要に応じて勧告)を行うことになります。さらに行政処分を行うことが必要であると認められる場合には、改善命令(勧告の内容に応じなかった場合のみ)、指定の効力の全部又は一部停止、指定取消を行うことになります。
行政指導や行政処分の内容については、次項「4.2行政上の措置の違い」にて詳細を示します。
また、厚生労働省では、全国的な適用の整合性を図る観点から、各自治体で指定取消等の行政処分相当の事案が確認された場合には報告を求めることとしています。
そのため、検討の結果、行政処分(改善命令を除く)を行うことになった場合は、聴聞等の手続を行う前に、指定された様式及びその詳細がわかる資料を添付のうえ、厚生労働省あてに報告8を行います。
このような監査後の対応の程度の決定については慎重な検討が求められますが、一方で、当該介護保険施設等が指定更新の時期が迫ってきたところ更新をしない場合、聴聞決定予定日の通知を発出せずに廃止の届出がなされた場合は、行政処分を行う対象介護保険施設等が存在しなくなることから、迅速な検討を行うことが必要です。
 
4.2. 行政上の措置の違い
4.2.1. 行政指導
監査の結果、事業所の運営に改善を要する点が見受けられる場合には、一般的な行政指導9によって、その是正を図ることになります(参照、行政手続法第2条第6号)。
行政指導の内容としては、口頭での注意・助言指導のほか、改善報告書の提出を求めるなど、様々なものが想定されます。
行政指導は、一般的に法律の根拠なく行うことが可能です。ただし、介護保険法は、行政指導の特則として、勧告について規定しています(4.2.2勧告)。
 

 
8 「介護保険法第197条第2項に基づく介護保険施設等に対する介護保険法第5章の規定により行う行政処分に関する報告等について」(平成28年3月30日老指発0330第1号厚生労働省老健局総務課介護保険指導室長通知)
9 行政手続法第46条では、地方公共団体の機関が行う処分等のうち、条例等に基づいて行うもの、行政指導及び地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、行政手続法に定める手続を適用することを避け、地方公共団体において本法の規定の趣旨にのっとり責任をもって措置を講ずるよう努力義務をおくようにされているものである。
 
4.2.2. 勧告
勧告とは、指定権者が事業所等に対して、期限内に改善措置内容について報告を求めることができるというものであり、強い類型の行政指導といえます。
勧告を行うことができるのは、①介護保険法第70条第9項又は第11項等に従わない場合、②人員基準違反、運営基準違反、事業を休廃止する際に利用者等の継続的サービス確保のための便宜提供の義務に違反した場合に限られます(介護保険法第76条の2第1項各号等)。人格尊重義務違反や不正請求については勧告を行うことができないので、注意が必要です。
指定権者は、事業所が期限内に勧告に係る措置を取らなかった場合には、その旨を公表することが認められています。ただし、公表を行うことは必須ではありません(介護保険法第76条の2第2項等)。
事業所が正当な理由なく勧告に係る措置を取らなかった場合には、次に述べる命令に移行することができます(介護保険法第76条の2第3項等)。
 
4.2.3. 命令
事業所等が勧告に対する措置を取らなかった場合には、指定権者は、勧告に係る措置をとるべきことを命令することができます(介護保険法第76条の2第3項等)。命令を発した場合には、その旨を公示しなくてはなりません(同条第4項)。
命令は不利益処分であるため、処分基準の設定・公表が努力義務として課せられること(行政手続法第12条第1項)、最低限、事前の弁明の機会の付与が義務付けられること(行政手続法第13条第1項第2号)、処分と同時にその理由を提示することが義務付けられること(行政手続法第14条第1項)に留意してください。
 
4.2.4. 効力の一部停止
指定基準違反等または人格尊重義務違反の内容などが介護保険法第77条第1項各号等のいずれかに該当する場合には、指定権者は、事業所等に対し、指定取消、または期間を定めて指定の効力の全部もしくは一部停止を行うことができます(同項柱書)。
なお、効力の一部停止を行う際には、最低限、事前に弁明の機会を付与しなければなりません(行政手続法第13条第1項第2号)。また、処分基準の設定・公表の努力義務(行政手続法第12条第1項)、理由の提示(行政手続法第14条第1項)にも留意してください。
効力の一部停止の具体的な内容については、新規利用者の受入停止、介護報酬請求額の上限設定(期間を限定して報酬額を通常の70%とするなど)が想定されますが、利用者保護の視点も考慮しつつ、各自治体で検討すべき内容となります。
 
4.2.5. 効力の全部停止
指定権者が事業所等に対し指定の効力の全部停止(介護保険法第77条第1項柱書等)を行う際には、最低限、事前に弁明の機会を付与しなければなりません(行政手続法第13条第1項第2号)。また、処分基準の設定・公表の努力義務(行政手続法第12条第1項)、理由の提示(行政手続法第14条第1項)にも留意してください。
効力の全部停止を命じる期間などについては、効力の一部停止を命じる場合と同様に、利用者保護の視点も考慮しつつ、各自治体で検討すべき内容となります。
 
4.2.6. 指定取消
指定権者が事業所等に対し指定取消(介護保険法第77条第1項柱書等)を行う際には、必ず事前に聴聞を行わなくてはなりません。
指定取消を行う場合においては、弁明の機会の付与をもって聴聞に代えることはできません(行政手続法第13条第1項第1号)。
また、処分基準の設定・公表の努力義務(行政手続法第12条第1項)、理由の提示(行政手続法第14条第1項)にも留意してください。
 
4.2.7. 行政処分に伴う公示
指定を取り消し、又は指定の全部若しくは一部の効力を停止したときは、指定権者は介護保険法第78条第3項等に基づいて、事業所名、処分の内容及びその期間など介護保険法施行規則第131条の2等に定められた事項を公示します。
 
4.3. 処分事由の認定について
4.3.1. 不正とは
法令用語における「不正」や「不当」とは、具体的な法規や公序良俗に反する違反のことを意味します。
介護保険法上は、例えば、申請者が指定の申請前5年以内に居宅サービス等に関し不正又は著しく不当な行為をした場合には指定を受けることができない(介護保険法第70条第2項第9号等)といった効果が定められています。
 
4.3.2. 故意、重過失、軽過失とは
① 故意について
故意とは、自分の行っている行為が何らかの結果をもたらすことを認識していたにもかかわらず、あえてその行為を行ったことを指します。
 
② 重過失について
過失とは不注意により失敗することをいい、特に、自分の行っている行為がどんな結果を引き起こすかについて認識しえたにもかかわらず、不注意のためにそれを認識しないことを指します。
過失のうち、特に重過失(重大ナル過失)については、最高裁判例によって、「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すもの」とされています(最判昭和32年7月9日集民27号55頁、損害賠償請求事件)。
重過失は、判例上、故意と同等に評価されています。これについては、後述の「4.3.3不正認定について」も参照してください。
 
③ 軽過失について
軽過失とは行うべき注意を欠いている状態であり、特に断りなく過失というときは、この軽過失のことを指します。
 
4.3.3. 不正認定について
行政処分の程度を決定する際には、処分事由の認定を行う必要があります。特に不正認定については、不正を行ったという事実を証憑や証言などで裏付けたうえで行う必要がありますが、不正については必ずしも故意が認定できる場合に限られない点に留意する必要があります。
実務では、不正請求が疑われる場合について、故意が認められた場合に限り不正請求と認定し、過失にすぎない場合は過誤調整として取り扱うという運用がみられるようです。しかしながら、過失である場合においても一切不正が認定できないわけではないことには注意してください。
とりわけ重過失が認められる場合においては、故意とほぼ同視し、不正と認定することを妨げられるべきではありません。重過失を認定する例として、事業者が故意であることは頑なに認めていないけれども、明らかな人員基準違反を見過ごしていたような場合が想定されるでしょう。
また、不正を認定するにあたり、経験則による推認を行うことがあります。
例えば、不正請求の認定をするに際し、関係者の証言や他の諸記録との整合性等を調査した結果として、経験則による推認を行い、不正請求があったと認定することは否定されません。
経験則による推認は、訴訟における事実認定の作業にも用いられており、直接的な証拠がなくても、一般的にその事実があれば一方の別の行為も行われたであろうとの推定が可能な場合は、1つの認定事実として取り扱うことが妨げられないということです。
ただし、経験則には常に例外が想定されることから、その認定は慎重に行う必要があります。
 
4.4. 処分程度の考え方
4.4.1. 行政処分程度の決定にあたっての基本的考え方
行政処分の程度の決定についての大きな流れは、以下に示すSTEP1からSTEP3の3段階で整理することができます。
監査において確認できた事実について、人員基準違反、運営基準違反、人格尊重義務違反、不正請求、不正の手段による指定であったと認定できるか判断を行い、その結果に基づき、行政処分の程度を決定することが必要です。
なお、以下記載の3つの段階を参考に、各自治体において、処分程度の決定の考え方や処分基準を定めることが望まれます。
 
STEP1:事由ごとに基本的な処分程度を定める
まず行政処分の対象となった事由に対して、基本的な処分程度を定めます。
介護保険法を基に、まずその事由が効力の全部停止又は一部停止、指定取消、もしくは行政処分まで至らない勧告がふさわしいか、程度を定めます。
なお、前述したとおり、勧告は、人員基準違反、運営基準違反、事業を休廃止する際に利用者等の継続的サービス確保のための便宜提供の義務に違反した場合に限り行うことが認められるものであって、人格尊重義務違反や不正請求については介護保険法第76条の2等に記載がないため、勧告の対象とはならず、介護保険法第77条等による行政処分を行うことができる事由に該当することに注意が必要です。
 
STEP2:基本的な処分程度に対して加重軽減を行う
ここでは、STEP1の基本的な処分程度に対して、その事由の個別事情を考慮し、処分程度の加重軽減を行います。特に当該行為の重大性・悪質性については、以下の点に着眼したうえで、検証を行うことになります。
① 利用者被害、法益を侵害している様態・程度
・ 被害を受けた利用者数、個々の利用者が受けた被害はどの程度深刻か。
・ 利用者に対し著しく不適切な介護サービスを提供し、あるいは多額の不正請求を行うなど、当該違法・不当行為は法益をいかなる程度侵害しているか。
 
② 故意性の有無
・ 当該違法・不当行為は故意によるものか(場合によっては重過失を含む)、あるいは過失によるものか。
 
③ 常習性の有無
・ 当該違法・不当行為は反復継続して行われたのか、あるいは一回限りのものであったのか。
・ 当該違法・不当行為が行われた期間はどの程度であったのか。
 
④ 組織性の有無
・ 当該違法・不当行為は現場の担当者個人の判断で行われたものか、あるいは経営陣や管理者も関わっていたものか。
・ 問題を認識した後に隠ぺいを図るなど悪質な行為が認められたか。悪質な行為が認められた場合には、当該行為が組織的なものであったか。
 
⑤ 悪質性の有無
・ 当該違法・不法行為につき、行政からの指導を受けているにも関わらず正当な理由なく指導にしたがっていないことが認められるかどうか。
・ 監査時に、虚偽報告や虚偽答弁の事実が認められるかどうか。
 
STEP3:最終的な処分程度の決定を行う
STEP2にて、個別事情を踏まえた加重軽減を行った後、地域におけるサービス提供・基盤整備の状況、事業者の運営管理体制の適切性10など、配慮すべき他の要素を総合的に考慮したうえで、具体的な処分内容を決定することになります。
地域におけるサービス提供・基盤整備の状況については、例えば指定取消や全部効力停止相当ではあるものの、地域に代替サービス等がなく、かつ不正行為の要因が除去され、適切なサービス提供が行われる見込みがあるときに処分程度を軽減することなどが想定されます。
また事業者の運営管理体制の適切性については、例えば行政指導や勧告相当ではあるものの、事業者の役員などの法令等の知識が欠如している、職員の介護に関する知識や技術が欠如しているなどで改善に一定の期間がかかる見込みの場合に加重するなどが想定されます。
 

 
10 個々の役職員の法令遵守等に関する知識や取組は十分か、事業者の運営管理体制は十分か、また適切に機能しているか。職員教育は十分に行われているか。
 
図表2:行政処分程度の決定にあたっての基本的考え方
 
図表2:行政処分程度の決定にあたっての基本的考え方
 
4.4.2. 処分基準の作成について
行政庁においては、処分基準を定めるとともに、それを公にしておくよう努めなくてはならない(行政手続法第12条第1項)とされています。そのため、介護事業者に対する不利益処分を行う可能性のある自治体は、処分基準を作成しておくよう努めることが必要です。
また処分基準を定めるにあたっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない(行政手続法第12条第2項)とされています。
なお、処分基準の形式については、告示、通達、訓令、要綱などの特定の形式はありません。
本マニュアルの巻末に、令和4年度老人保健健康増進等事業「指定介護サービス事業所等に対する「監査マニュアル(仮称)」の策定に関する調査研究事業」においてまとめられた「処分基準の考え方の例」を記載します。
なお、本マニュアルに示す内容は国が普通地方公共団体に対する関与としての技術的助言(地方自治法第245条第1号イ、同法第245条の4)として、法的拘束力を有するものではないことに十分に留意してください。処分基準を設定・公表するのも(行政手続法第12条第1項)、それに基づいて実際の不利益処分を行うのも、あくまでも各自治体の権限です。
「処分基準の考え方の例」を記載する目的は、特に監査や処分経験のない自治体において、処分基準作成に取り組むための参考資料ないしガイドラインとして活用されることにあり、すでに処分基準を策定したうえで、それを活用して処分の程度を決定してきたなど、一定程度の実務の蓄積がある自治体の取組や方法について否定するものではありません。
 
5.  業務管理体制の特別検査
5.1. 業務管理体制とは
介護サービス事業者11は介護保険法第74条第6項等に規定されている「要介護者の人格を尊重するとともに、この法律又はこの法律に基づく命令を遵守し、要介護者のため忠実にその職務を遂行する」という義務の履行が確保されるよう、厚生労働省令で定める基準に従い、業務管理体制を整備しなければならない(介護保険法第115条の32)とされています。
業務管理体制を整備することにより、法令遵守の義務の履行を確保し、指定取消相当事案などの不正行為の発生を未然に防止するとともに、利用者又は入所者の保護と介護事業運営の適正化を図ることが期待されます。
業務管理体制として求められる内容は、事業者の規模(事業所数)によって異なります。
 
図表3:業務管理体制の内容
図表3:業務管理体制の内容
 

 
11 指定居宅サービス事業者、指定地域密着型サービス事業者、指定居宅介護支援事業者、指定介護予防サービス事業者、指定地域密着型介護予防サービス事業者及び指定介護予防支援事業者並びに指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設及び介護医療院の開設者
 
5.2. 業務管理体制の検査
前述のとおり、介護サービス事業者は業務管理体制を整備する必要があります。
また、介護サービス事業者は厚生労働省令で定めるところにより、業務管理体制の整備に関する事項を届け出なければなりません(介護保険法第115条の32第2号)。
その上で、業務管理体制の届出先である行政機関は、その事業者における業務管理体制の整備に関して必要があると認める場合には、検査を行うことができます(介護保険法第115条の33)。
検査指針12では、検査を一般検査と特別検査の2つに整理しています。一般検査とは、届出のあった業務管理体制の整備・運用状況を確認するために定期的に実施する検査のことをいいます。これに対して、業務管理体制の整備状況、事業者の不正行為への組織的関与の有無を確認するための立入検査のことを特別検査といいます。(ここでいう組織的関与とは、事業者の役員等からのメール、電話等による指示などに基づくものであることです。13
検査指針においては、特別検査は指定取消相当の事案が発覚した場合に、当該事業所等の本部等へ立ち入り、業務管理体制の整備状況を検証するとともに、当該事案への組織的関与の有無について検証を行うこととされています。また、指定の効力停止処分の事案であったり、利用者の生命又は身体の安全に重大な危害を及ぼす事案が発覚した場合にも、当該事業所等の本部等に立ち入り、業務管理体制の整備状況の検証を行うこととされています。
特別検査にて組織的関与が認められるとともに指定取消となった事業所を運営する事業者及び役員等については、その後の指定等又は更新の拒否につながる欠格事由該当となるため、留意が必要です。詳細は、後述の「5.5連座制について」に記載します。
業務管理体制整備の目的にかんがみると、監督権者は、定期的な一般検査を通じて法令遵守等の取組に関して日頃から事業者の意識を醸成していくことが重要です。
特別検査が必要になる可能性が高い事案については、自自治体が実施する場合の他に、他の自治体に要請する場合もあるため、事前にどのタイミングで特別検査を要請すべきか、スケジュールの検討をしておく必要があります。
 

 
12 「介護サービス事業者に係る業務管理体制の監督について」(令和6年4月4日老発0404第3号厚生労働省老健局長通知)別添「介護サービス事業者業務管理体制確認検査指針」(以下「検査指針」という。)
13 「介護保険法及び老人福祉法の一部を改正する法律等の施行について」(平成21年3月30日老発第0330076号厚生労働省老健局長通知)
 
5.3. 特別検査要請時の留意点
特別検査を行うのは業務管理体制の監督権者であるため、監査を実施する主体(指定権者)と業務管理体制の監督権者が異なる場合があります。
その場合は、指定権者が指定等取消処分を行うにあたって、業務管理体制の監督権者に対し、不正行為への組織的関与の有無を確認するよう、特別検査の実施を求めることとなります(介護保険法第115条の33第3項)。
さらに、業務管理体制の監督権者は、特別検査実施後に、組織的関与の有無等の検査結果を、求めのあった指定権者に通知しなければなりません(介護保険法第115条の33第4項)。
また、監督権者は指定権者と密接な連携の下に特別検査を行う必要があります(介護保険法第115条の33第2項)。検査指針では、その際に両者間で必要に応じて監査に関する情報を共有しても構わないこととなっています。監査情報の共有については、特別検査は効率的かつ効果的な検証方法の選択に努めるという視点からも有効です。
指定権者は、監査を進めていく中で、指定等取消処分の可能性が高くなった場合には、できる限り早期に監督権者との情報共有を図るよう努めてください。
 
5.4. 特別検査の概要
特別検査における主な視点は、①業務管理体制の問題点を確認し、その要因を検証すること、②指定等取消処分相当事案への組織的関与の有無を検証すること、という2点が挙げられます。
特別検査の流れは以下のとおりです。
 
図表4:特別検査の流れ
図表4:特別検査の流れ
 
5.5. 連座制について
連座制とは、不正を行ったことで指定取消となった指定介護サービス事業者について、役員等の組織的な関与があったと認められた場合には、組織の連座責任として、当該事業者が経営する同一サービス類型(図表5)の事業所において、指定取消から5年間は原則として新規の指定または更新を認めないことをいいます。
この役員等には、その名称を問わず法人業務に役員と同等以上に支配を有する者又はその事業所を管理(管理者)する者も含まれます(介護保険法施行令第35条の4)。
つまり、指定取消が行われたうえで、特別検査にて組織的関与が認められた場合には、連座制が適用されることとなり、事業者又は役員等の欠格事由となります。また、申請者(法人に限る)と同一法人グループに属し、かつ密接な関係を有する法人が指定取消を受けて特別検査にて組織的関与が認められた場合にも、指定・更新の欠格事由に該当します(介護保険法第70条第2項第6号の3等)。
 
図表5:同一サービス類型について
図表5:同一サービス類型について
 
また、連座制は、指定取消処分を行った当該指定権者が指定する事業所のみならず他の指定権者が指定する事業所(同一サービス)も新たな指定並びに指定の更新が受けられなくなります(介護保険法第70条第2項等)。
そのため、処分を行った指定権者は各都道府県に当該役員等の氏名等を通知し、通知を受けた都道府県は管内の市町村へ通知をする必要があります。なお、指定権者が市区町村長の場合は都道府県を通じて通知を行います13
図表6:連座制の注意事項
図表6:連座制の注意事項
 
6.  行政手続法にのっとった手続
6.1. 行政手続法にのっとった手続の重要性
監査の結果、介護保険施設等に不利益処分(行政処分)を科す場合、行政手続法に基づいた手続が不可欠となります。
行政手続法の目的は、「行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資すること」にあります(行政手続法第1条)。
近年、介護保険法に基づいて行われた行政処分が、行政手続法に規定する手続の不備を理由として、裁判所によって取り消されるという事案が少なくありません。
ここでは特に、監査とその後の行政処分を行う際の重要な手続として、「聴聞・弁明の機会の付与」(行政手続法第13条)、「理由の提示」(行政手続法第14条)について説明します。
 
6.2. 聴聞・弁明の機会の付与
6.2.1. 聴聞・弁明の機会の付与とは
行政手続法第13条に定められたとおり、介護保険施設等に対して、指定取消や指定の全部または一部効力停止、命令といった内容の不利益処分を行う場合には、「聴聞」もしくは「弁明の機会の付与」を行うことが必要となります。
聴聞及び弁明の機会の付与の目的は、不利益処分の名宛人(となるべき者)の権利利益の保護を図るために、自己に有利な弁解を行う場を設けることにあります。こうした目的にかんがみると、聴聞及び弁明の機会の付与を十分に実施しなかった瑕疵は、裁判所によって違法なものと評価されることになります。
まず、「聴聞」は口頭審理であるため、処分の名宛人となるべき者(事業者)は聴聞期日に出頭し、意見陳述を行うことになります。聴聞は、介護事業者に対し重い不利益を与える指定取消を行う際に必須の手続です。
次に、「弁明の機会の付与」は書面審理で行われるため、事業者は弁明書を提出して行うことになります。必要に応じて、証拠書類等の提出も行います。介護事業者に対する行政処分においては、指定の全部又は一部効力停止、あるいは命令を行う際に実施することになります。
「弁明の機会の付与」の代わりに「聴聞」を行うことは可能ですが、その逆に、「聴聞」の代わりに「弁明の機会の付与」を行うことは認められないことに注意してください。また、聴聞の具体的な手続は、各自治体で定められた聴聞等の実施に関する条例・規則に基づき行うことになります。
なお、介護保険法では聴聞決定予定日という特則があり、これについては「6.2.3聴聞決定予定日について」で説明します。
 
6.2.2. 聴聞手続の流れ
聴聞手続の流れは、おおよそ以下のとおりに整理することができます。ただし、聴聞については、各自治体の聴聞等の実施に関する条例や規則も併せて確認してください。
図表7:聴聞手続の流れ
図表7:聴聞手続の流れ
 
6.2.3. 聴聞決定予定日について
聴聞決定予定日は、行政手続法に定められた手続ではなく、介護保険法に定められた特則です。介護保険法第70条第2項第7号の2等は、聴聞決定予定日について、「当該検査の結果に基づき第77条第1項等の規定による指定の取消しの処分に係る聴聞を行うか否かの決定をすることが見込まれる日として厚生労働省令で定めるところにより指定権者が当該申請者に当該検査が行われた日から10日以内に特定の日を通知した場合における当該特定の日をいう。」と規定しています。
聴聞決定予定日を事業者に通知するかどうかは指定権者の判断となります。必ずしも事業者に通知する必要はなく、通知していない状態であったとしても、その後の検査等により指定取消の処分に係る聴聞を行う必要があると認められる場合には、聴聞を行うことは可能です。
ただし、聴聞決定予定日の通知は指定権者の判断ですが、前述の「6.2.2聴聞手続の流れ」にもあるとおり、行政手続法に基づいた聴聞の通知は必ず行わなくてはなりません。
聴聞決定予定日は、立入検査を行った日から60日以内の特定の日を通知するものとされていますが(介護保険法施行規則第126条の4等)、必ずしも聴聞決定予定日と実際の聴聞の日が一致する必要はなく、あくまでも立入検査を行った時点で、聴聞の要否が決定すると見込まれる日を聴聞決定予定日とすればよいとされています。
また、立入検査を複数回行う場合については、必ずしも初回の立入検査日を起算日とする必要はなく、立入検査の状況等を勘案して、起算日となる立入検査日を決定します。
なお、すでに通知した聴聞決定予定日までの間に聴聞の要否を決定することができないと見込まれる場合、指定権者は再度の立入検査を行うことで、あらためて通知を発出することができますが、当該通知を乱発することで、事業者の事業廃止に関する権利を不当に阻害することのないよう、十分留意してください。
しかし、前述の「3.7.2立入検査中の廃止届に関する制限」のとおり、立入検査の日から聴聞決定予定日までの間に廃止届を提出した事業者については、相当の理由がある場合を除いて指定・更新の欠格事由に該当するとされていることは、十分に考慮する必要があります。
 
6.2.4. 聴聞・弁明の機会の付与に関するQ&A
 
Q1. 聴聞で撤回/反論された
Q.監査の際は不正事実を認める内容の証言をしていた事業所の職員が、聴聞で当該証言を撤回したり、もしくは反論してきたような場合、どのように対応すればよいですか。
A.証言のみに頼った事実認定を行っていると、こうしたケースについて対応が難しくなるので、注意してください。
事業所の職員が証言を撤回したり強い反論を行ってきたとしても、指定権者の手元に客観的な証拠があり、理論的かつ客観的に証言が翻った理由を証する書類が先方から提出されないのであれば、不正認定して構いません。
また、聴聞時に事業所が「監査(立入検査)における聴取の際に、監査担当者に威圧的な対応をとられたため、このような証言にした」と訴えて、証言を撤回するケースもみられるようです。そのようなケースへの対策として、聴取の際の状況を記録する目的で、対象者の同意と署名を取った上で、音声を録音することが考えられます。
 
Q2. 聴聞の主宰者は誰が適切か
Q.聴聞の主宰者として、監査を実施した職員ではなく、監査を実施している部内の別課(介護関連)職員が選任されました。しかし、事業所からは、「監査を実施している部署と同部署の職員が私たちの弁明を正当に聞き取ってくれるのか」という疑義が出ました。
介護制度を理解している部署の職員でなければ、正確な聴聞主宰者としての職務遂行が難しいと考えての配慮でしたが、聴聞を実施する職員の構成について、どのように考えれば良かったでしょうか。
A.聴聞主宰者の排斥事由は行政手続法第19条第2項に定められているため、これに該当しなければ、法的には問題ありません。
ただし、本条では禁止されていませんが、公平性を担保するために、聴聞主宰者としては不利益処分を行う立場にある課等の責任者、また主宰の補佐としてはその聴聞に係る事案の調査検討に携わった職員以外の職員を充てるよう配慮することとされています(行政手続法の施行に当たって、総管第211号平成6年9月13日)
聴聞主宰者の指名のあり方によっては、聴聞手続全体が違法と評価される可能性もあるため、組織の状況に応じ、聴聞主宰者の指名については公平性の担保を念頭においた配慮が必要です。
 
Q3. 事業者が聴聞当日に来なかった場合
Q.事業者が聴聞に指定された日に来なかったため、行政側の職員しかいない状態で聴聞を開催することになってしまいました。このような場合、聴聞が実施されたものとして取り扱って良いのでしょうか。
A.行政側がしかるべき手続を行ったうえで事業者が欠席したのであれば、聴聞が開催されたものと取り扱って構いません。
 
Q4. 事業者が聴聞に欠席し、陳述書を送ってきた時の取扱い
Q.聴聞当日に事業所が出席せず、後日陳述書だけを送ってきました。この場合、受け取って聴聞終了としても良いのでしょうか。
A.陳述書の内容によりますが、陳述書を受け取ったことで聴聞終了として構いません。
なお、事業所が欠席、陳述書もない場合はQ3と同様に判断して構いません。
 
Q5. 当日だけで聴聞が終わらなかった
Q.聴聞当日だけで審理が終わらなかった場合、別日に継続しても問題ないでしょうか。
A.問題ありません。主宰者が聴聞の期日における審理の結果、なお聴聞を続行する必要があると認める場合には、新たな期日を定めることができます(行政手続法第22条第1項)。
 
Q6. 事業所から聴聞を延期してほしいと要請があった
Q.事業所から準備期間が欲しいと延期の要請があった場合、どの程度延期するのが適切なのでしょうか。
A.延期の要請理由にもよりますが、処分庁の裁量で延長して構いません。聴聞に参加する予定だった名宛人が体調不良を訴えてきたような場合にも、同様に対応することが望ましいと思われます。
 
Q7. 聴聞や弁明の機会の付与を省略できる場合
Q.弁明の機会の付与や聴聞を省略して、すぐさま改善命令や処分を下すことはできるのでしょうか。
例えば高齢者虐待など利用者の安全が懸念される場合で、弁明の機会の付与を省略して、すぐさま改善命令を出すことなどはできるのでしょうか。
A.行政手続法では、緊急に不利益処分をする必要がある場合には、聴聞や弁明の機会の付与を省略することが認められてはいます(行政手続法第13条第2項)。
しかし、「行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資すること」(行政手続法第1条)を十分考慮した上で判断すべきです。
 
Q8. 弁明の機会の付与の代わりに聴聞を行っても良いか
Q.当自治体では指定の全部効力停止及び一部効力の停止の場合でも、弁明の機会の付与ではなく聴聞で対応していますが、問題ないでしょうか。
A.問題ありません。指定の全部効力停止及び一部効力の停止の場合は弁明の機会の付与でも良いのですが、不利益処分について慎重に運用するという趣旨で、自治体の判断により聴聞を行うのは構いません(行政手続法第13条第1項第1号ニ)。
しかし、指定取消を行う場合には必ず聴聞を実施しなくてはならず(同号イ)、これを弁明の機会の付与に代えることはできません。指定取消を行う場合に弁明の機会の付与で対応してしまった場合は重大な違法と評価されることになりますので、十分留意してください。
 
Q9. 聴聞の資料における通報者保護等の配慮について
Q.聴聞において、聴聞の証拠や行政処分の証拠を事業者に示す必要がある場合に、通報者保護の観点から、どこまでの資料を見せなければいけないのか判断に悩んでいます。内容によっては通報者が分かってしまうことがあります。
A.原則として情報はすべて開示する必要があるものの、第三者(このケースの場合は通報者)に不利益となる場合は閲覧させる必要はありません。その場合、通報者保護の観点から、該当部分を黒塗りするなどの対応が可能です。
 
6.3. 不利益処分の理由の提示
6.3.1. 不利益処分の理由の提示とは
行政手続法第14条第1項は、「行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合には、この限りでない。」と規定しています。
不利益処分を行う際に理由の提示が義務付けられている趣旨は、申請に対する拒否処分の場合(行政手続法第8条)と基本的に同じであり、行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制することと、申請者にとって争訟(行政不服申立て、行政訴訟)提起の便宜を図るためとされています。
理由の提示は、従来「理由付記」と言われることもありますが、口頭で理由を示す場合もあるため(行政手続法14条3項――ただし、書面の交付を求められたときはこれに応じる必要があります。)、行政手続法にのっとり、本マニュアルでも「理由の提示」に統一します。
 
6.3.2. 理由の提示のあるべき姿
「理由の提示」については、裁判所によってその不備を理由として行政処分が取り消された事例が数多くあり、介護保険法上の行政処分についても、そうした事例が複数確認されています。このように、理由の提示の不備については大きな法的リスクがあることを念頭においたうえで、十分な記載を行うことが必要となります。
「理由の提示」のあるべき姿を、判例とともにお示ししましょう。最高裁は、行政手続法第14条第1項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、「上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである」と述べています(最判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁、一級建築士免許取消処分等取消請求事件)。
この点、「理由の提示」は根拠法条の番号を示すだけでは不十分であり、処分の根拠となった事実関係(原因事実)、法令や処分基準の適用関係まで具体的に記載しなくてはならないとされています。
 
6.3.3. 関連判例
介護事業者への処分決定の後、理由の提示の不備により、行政処分が取消された主な判例を以下に列挙します。
① 熊本地判平成26年10月22日判例自治422号85頁
介護老人保健施設の開設許可取消処分について、取消理由の不正請求と認定された事実が特定されていないとして取り消された事例
 
② 名古屋高判平成25年4月26日判例自治374号43頁
指定通所リハビリテーション事業所の指定取消処分が、理由の提示の不備により取り消された事例
 
③広島高松江支判平成31年4月17日LEX-DB25563211
高齢者介護施設に対する一部効力停止が、理由の提示の不備があるとして取り消された事例
 
「理由の提示」については、事実関係、根拠法令、適用法規・処分基準の適用関係(処分基準が公表されている場合に限る)などを具体的かつ第三者が理解できるように記載しなくてはなりません。高齢者虐待の事案であれば、対象者、その具体的な日時・場所や虐待の態様等まで記載することが必要ですし、不正請求の事案であれば、その具体的な期間や金額まで記載することが求められます。それらの記載が不十分であった結果、理由の提示が不十分であるとして、処分が取り消された事例があります。
また、過去の事例では、監査や聴聞の過程において事業者に対し十分に処分の理由を伝えているのだからとして、行政処分を行う際には簡略化された理由しか伝えていなかったり、行政処分を行う際には簡単な理由しか示すことなく、後日、事業所との面談の際に口頭で理由を補足しようとしたケースが確認されていますが、こうした運用は認められません。
 
6.3.4. 公益通報者の保護
事業者の不正が、内部からの通報等によって発覚する場合も少なくないと思われます。「理由の提示」における通報者や情報提供者の権利利益等の保護については、東京地判平成30年5月24日判タ1465号105頁が参考になります。
東京地裁は、「(略)不認定とする処分の理由として、単に同号に該当する旨を指摘し又はその文言を記載するだけでは、行政手続法第8条1項本文に定める理由の提示として不十分ではない一方、任意の情報を提供する第三者の権利利益等の保護への配慮が必要な場合や、申請者の言動につきその日時、場所や態様等を個別具体的に明らかにすることが困難な場合もあり得ることを踏まえると、事実確認の詳細まで常に記載しなければならないということもできず、(中略)また、行政庁が処分に当たって考慮した事実確認の中に、情報提供者の保護への配慮を要しないもの(例えば、犯罪歴、申請者の供述、警察官によって現認された申請者の言動等)がある場合には、これらに係る具体的内容(その日時、場所や態様等を含む。)についても、可能な範囲で明らかにされることを要する」と述べています。
他方、東京地裁は、情報提供者の保護への配慮を必要としないものについては、その日時、場所や態様等を含めた具体的内容について可能な範囲で明らかにすべきことを求めているので、注意が必要です。
 
7.  処分後の業務
7.1. 指定取消等を行った場合の利用者の移行について
事業者には、事業の休廃止を行う際には利用者や入居者に対する継続的なサービスの継続を図るための便宜を提供することが義務付けられています(介護保険法第74条第5項等)。指定の効力の全部停止、指定取消という処分が行われた際にも、継続してサービス提供を受けることができなくなった利用者等への支援は原則として事業者が行うべきではありますが、種々の理由により事業者の支援が十分ではない場合も起こり得ます。
そうした場合、利用者等へのサービス継続を第一義に考えて、「助言その他の援助」など、積極的な指定権者の介入が望まれます。
 
7.2. 高齢者虐待が認められた事業者への措置
高齢者虐待が認められ、その後も運営を続ける介護保険施設等に対して指定権者は、要因分析に基づく再発防止に向けた改善計画や改善計画に対する改善状況の報告を定期的に求めるとともに、運営指導の実施計画を前倒しするなどしてそれぞれの地域の実情や事案内容に応じた指導を高齢者虐待の担当部局と連携・協働して行うことで、当該介護保険施設等が取り組む改善の状況を繰り返し確認し、虐待の要因が除去され適切なサービス提供が行われる運営体制となっていることを確認することが必要です。
なお、高齢者虐待が認められた介護保険施設等が引き続き利用者に対してサービスを提供することを踏まえると、虐待の要因が除去されたかどうか等の確認は行政処分の程度の検討に並行して、速やかに行う必要があります。
 
7.3. 不正請求における詐欺罪の立件という視点について
公務員は、違法性が明らかに認められる場合など、犯罪があると思料するときは所轄省庁に対して告発することが義務付けられています(刑事訴訟法第239条第2項2)。利用者への虐待については警察への告発、労働基準法違反については労働基準監督署への情報提供などが想定されますが、不正請求についても保険者への詐欺罪という観点から告発を検討することが考えられます。
 
7.4. 欠格事由該当者の共有について
特別検査にて組織的関与が認められるとともに指定取消となった事業所及び役員等については、各指定権者においても指定等又は更新の拒否の対象となるため(欠格事由)、処分通知を発出する際は、他の指定権者に対しても当該事業者が欠格事由に該当する旨と当該役員等の氏名等を併せて通知する必要があります。当該通知を受け取った指定権者は、新規指定や更新の事務において欠格事由該当者かどうか確認を行い、該当する場合は新規指定や更新を拒否することとなります。
 
 
(参考)
○行政手続法(平成五年法律第八十八号)(抄)
(目的等)
第一条 この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。
2 処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関しこの法律に規定する事項について、他の法律に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 法令法律、法律に基づく命令(告示を含む。)、条例及び地方公共団体の執行機関の規則(規程を含む。以下「規則」という。)をいう。
二 処分行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。
三 申請法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
四 不利益処分行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。
イ 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分
ロ 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分
ハ 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分
ニ 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの
五 行政機関次に掲げる機関をいう。
イ 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関若しくは内閣の所轄の下に置かれる機関、宮内庁、内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項若しくは第二項に規定する機関、国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関、会計検査院若しくはこれらに置かれる機関又はこれらの機関の職員であって法律上独立に権限を行使することを認められた職員
ロ 地方公共団体の機関(議会を除く。)
六 行政指導行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
七 届出行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)をいう。
八 命令等内閣又は行政機関が定める次に掲げるものをいう。
イ 法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。次条第二項において単に「命令」という。)又は規則
ロ 審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)
ハ 処分基準(不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)
ニ 行政指導指針(同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項をいう。以下同じ。)
(理由の提示)
第八条 行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。
2 前項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない。
(処分の基準)
第十二条 行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。
2 行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
(不利益処分をしようとする場合の手続)
第十三条 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。
一 次のいずれかに該当するとき聴聞
イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
ロ イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。
ハ 名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分、名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。
ニ イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。
二 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき弁明の機会の付与
2 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の規定は、適用しない。
一 公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、前項に規定する意見陳述のための手続を執ることができないとき。
二 法令上必要とされる資格がなかったこと又は失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている不利益処分であって、その資格の不存在又は喪失の事実が裁判所の判決書又は決定書、一定の職に就いたことを証する当該任命権者の書類その他の客観的な資料により直接証明されたものをしようとするとき。
三 施設若しくは設備の設置、維持若しくは管理又は物の製造、販売その他の取扱いについて遵守すべき事項が法令において技術的な基準をもって明確にされている場合において、専ら当該基準が充足されていないことを理由として当該基準に従うべきことを命ずる不利益処分であってその不充足の事実が計測、実験その他客観的な認定方法によって確認されたものをしようとするとき。
四 納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付を命じ、又は金銭の給付決定の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分をしようとするとき。
五 当該不利益処分の性質上、それによって課される義務の内容が著しく軽微なものであるため名あて人となるべき者の意見をあらかじめ聴くことを要しないものとして政令で定める処分をしようとするとき。
(不利益処分の理由の提示)
第十四条 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
2 行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。
3 不利益処分を書面でするときは、前二項の理由は、書面により示さなければならない。
(届出)
第三十七条 届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。
(地方公共団体の措置)
第四十六条 地方公共団体は、第三条第三項において第二章から前章までの規定を適用しないこととされた処分、行政指導及び届出並びに命令等を定める行為に関する手続について、この法律の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
 

 
 
 
 
処分基準の考え方の例
 
 
 
 
令和4年度老人保健健康増進等事業「指定介護サービス事業所等に対する「監査マニュアル(仮称)」の策定に関する調査研究事業」においてまとめられた「処分基準の考え方の例」を記載します。
なお、本項に示す内容は国が普通地方公共団体に対する関与としての技術的助言(地方自治法第245条第1号イ、同法第245条の4)として、法的拘束力を有するものではないことに十分に留意してください。
 
 
1. 行政処分等の実施の目的
介護保険制度は、要介護状態等の者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき設けられたものです。
そして、サービスを提供する事業者については、制度の目的を果たすため、人員、設備及び運営基準に従い、利用者の人格を尊重し、法令を遵守し、適切なサービスを提供することが義務付けられています。
また、本制度では、居宅サービス等、事業の多くの分野においては、基準に合致することを前提に自由に事業への参入が認められています。
したがって、介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等は、介護サービス事業者がこれらの義務を果たさず、ひいては制度の趣旨・目的に反する行為を行っている場合に、速やかにその不正行為を抑止し、利用者の尊厳及び適切なサービスを受けられる状態を回復し、これらの行為について当該事業者を始め広く一般的に再発防止を図ることに資する厳正な措置でなくてはならず、これにより、国民の制度への信頼を確保し、国民の共同連帯の理念による介護保険制度を持続させることを目的とするものです。
なお、一方で、行政処分等は、介護サービス事業者の事業運営に多大な影響を及ぼすものであることも踏まえて、不正行為の事実認定、処分事由への該当性判断、処分等の程度決定、最終的な処分等の通知までの一連の手続を含め、常に、法令等に基づき、社会通念にも照らし合わせつつ、合理的な根拠を持って行うよう努めなければなりません。
 
2. 前提となる考え方
● 行政処分等は、介護サービス事業者が行った不正行為が介護保険法第77条第1項各号等の処分事由のいずれかに該当する場合に行われるものです。ここでは、過去の行政処分等の事案の処分事由のうち大層を占める人員基準違反(第3号)、運営基準違反(第4号)、人格尊重義務違反(第5号)、不正請求(第6号)及び不正の手段による指定(第9号)の5つに該当する場合の処分等の程度決定について定めています。
 
● 処分等の程度決定にあたっては、原則として、不正行為の内容・程度を処分事由ごとに照らして判断するものとし、処分事由のうち、監査時の虚偽報告(第7号)及び虚偽答弁(第8号)についても、もとよりこれのみを事由として処分等を行うことができるものですが、ここでは、虚偽報告等による隠ぺい前の事実が該当する不正行為自体が該当する処分事由の程度決定時の加重項目として取扱います。
 
● 処分等の程度の検討については、まず、指定取消、指定の全部効力停止及び一部効力の停止という処分の程度をA級~D級という態様に分類し、そのうち全部効力停止については期間、一部効力停止については期間及び内容により区分するものとします。そして、上記5つの処分事由について、それぞれ基準となる態様として位置付けます。なお、人員基準違反及び運営基準違反については、原則としてそれらの処分の前段階として、行政指導たる勧告(勧告に従わない場合、命令)があります。ただし、人格尊重義務違反、不正請求、不正の手段による指定については、介護保険法上、行政処分の事由となるため、勧告とはならないことに留意が必要です。
 
処分事由 態様(級) 基本となる処分内容 根拠条文
人員基準違反 A級 勧告 介護保険法77条第1項第3号等
運営基準違反 A級 勧告 同77条第1項第4号等
人格尊重義務違反 C級 指定の全部効力停止 同77条第1項第5号等
不正請求 C級 指定の全部効力停止 同77条第1項第6号等
不正の手段による指定 C級 指定の全部効力停止 同77条第1項第9号等
表1:基本となる処分の態様
 
● 以下に、行政処分等の程度を考えるうえでの考え方の例をあげますが、態様や内容については、各自治体によって検討のうえ、定めるものとなります。
 
態様 内容(期間等)
A級 勧告(人員基準違反、運営基準違反時のみ)、勧告以外の行政指導
B級-1号 指定の一部効力停止1月(新規利用者受入停止等)
B級-2号 指定の一部効力停止3月(新規利用者受入停止等)
B級-3号 指定の一部効力停止6月(新規利用者受入停止等)
B級-4号 指定の一部効力停止1年(新規利用者受入停止等)
C級-1号 指定の全部効力停止1月
C級-2号 指定の全部効力停止3月
C級-3号 指定の全部効力停止6月
C級-4号 指定の全部効力停止1年
D級 指定取消
※指定の効力停止の期間(号)については、原則として、1月、3月、6月、1年の4区分とする。
表2:行政処分等の様態と内容の例
 
3. 基本的な考え方
(1) 処分等の程度決定にあたっては、原則として以下の各段階を経て決定します。
① 処分事由ごとに、基本となる処分等の態様(A級~D級)を定めます。人員、設備及び運営基準違反については、法の定めにより原則として「勧告」とします。その他の不正行為については、行政処分のうち中位的な態様である「指定の全部効力停止」とします。
 
② 処分等の対象事案の個別事情を当該処分等の態様に反映させるために、処分事由ごとに、利用者被害、法益を侵害している様態・程度、故意性、常習性、組織性、悪質性及び過去5年の行政処分等という項目に関し、基本となる処分等の態様に加重又は軽減する場合の内容及びその程度を定めます。
 
③ 処分等の態様が指定の全部効力停止又は一部効力停止となる場合の基本となる処分の期間については、3月とします。これに個別事情を当該処分の期間に反映させるために、処分事由ごとに、利用者被害、法益を侵害している様態・程度、故意性、常習性、組織性、悪質性及び過去5年の行政処分等という項目に関し、基本となる処分の期間に加重又は軽減する場合の内容及びその程度を定めます。加重又は軽減は月単位とし、基本となる処分の期間として定めた3月に加重・軽減の月数を加え、その月数に応じて、加重・軽減後月数を決定します。
 
加重・軽減後月数
換算程度(号)
内容
1~2月
1号
指定の全部又は一部効力停止1月
3~5月
2号
指定の全部又は一部効力停止3月
6~8月
3号
指定の全部又は一部効力停止6月
9月~
4号
指定の全部又は一部効力停止1年
表3:処分期間の換算表
 
④ 処分等の態様が指定の一部効力停止となる場合の内容の詳細については、以下のとおりとします。
(ア)原則として、新規利用者の受入停止とする。
(イ)処分対象事業種別と処分原因によっては、業務の部分的停止とする。
(ウ)報酬支払額の制限(減額)については、原則として、本来、指定取消又は指定の全部効力停止相当であるところを利用者保護等の観点から指定の一部効力停止処分へと変更する場合(下記(4)参照)に適用する。
(エ)報酬支払額の制限(減額)の程度及び期間については、当該処分の態様の変更の趣旨が、利用者のサービス継続性の確保(利用者保護)であることから、事業の継続運営も考慮し、原則として、その程度については、定員超過・人員欠如に関して規定されている7割への制限(減算部分は3割)、その期間については、指定取消処分相当からの変更の場合は6月、指定の全部効力停止相当からの変更のときは3月を標準とする。
 
(2) 一つの不正等行為が二つ以上の処分事由に該当する場合、または手段若しくは結果である行為が他の処分事由にも該当する一連の行為の場合には、原則として、処分事由ごとに処分等の程度を検討した上で、最も重い程度区分となるものを適用します。ただし、それぞれの処分事由に応じて、同時に行政処分と勧告・指導を行うことを妨げるものではありません。
 
(3) 二以上の不正等行為について併せて処分等を行うときは、それぞれの不正等行為ごとに処分等の程度を検討した上で、最も重い程度区分となるものに適宜加重(原則、処分の期間を加重。加重対象不正行為の程度によっては処分の態様を変更)を行います。ただし、同一の処分事由に該当する複数の行為については、時間的、場所的接着性や行為態様の類似性等から、全体として一の行為と認めうる場合には、単一の行為とみなすことができるものとします。
 
(4) 上記(1)から(3)の過程をすべて検討の上、導き出された処分等の程度の妥当性について、利用者保護及び事業所運営体制等の観点から検証する必要のある内容を定めます。この内容を検証して、必要な場合は処分等の程度を変更のうえ、最終決定します。
 
4. 個別事情による加重・軽減
上記の基本的な処分程度に対し、個別事情による加重や軽減を行います。
以下に、加重・軽減の判断基準例を記載しますが、あくまで例であり、各視点の具体的な内容や程度については、各自治体によって検討の上、定めるものとなります。
また、以下の表中の「程度」欄における態様は、前述の「表2:行政処分等の様態と内容の例」における態様を指します。
加重・軽減の考え方ですが、例えば人員基準違反の場合、基本的な処分程度は「表1:基本となる処分の態様」のとおり「基本となる処分内容:勧告」となります。以下の表を基に加重軽減を行った結果、加重の程度が「+2級」となった場合は、表2における勧告(A級)から2級上の指定の全部効力停止(C級)となります。
ここでは「3 基本的な考え方」の(1)-③のとおり、処分等の態様が指定の全部効力停止又は一部効力停止となる場合の期間については、基本を3月とするとしているため、加重軽減の結果、「C級-2号:指定の全部効力停止3月」となります。
 
(1) 人員基準違反
項目
内容
程度
①利用者被害、法益を侵害している様態・程度
【加重の視点】
 
● 利用者の生命又は身体の安全に重大な危害を及ぼすおそれのあるもの
+2級(態様)
● 利用者の身体の安全に危害を及ぼすおそれのあるもの
+1級(態様)
②故意性
【加重の視点】
 
● 故意又は重大な過失1に基づく行為
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 軽過失2に基づく行為で情状をくむべき場合
▲1月(期間)
③常習性
【加重の視点】
 
● 違反状況の継続が1年以上の場合
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 違反状況の継続が3月以下の場合
▲1月(期間)
④組織性
【加重の視点】
 
● 役員3等が実行又は関与(指示)していたもの
+1月(期間)
● 役員等が不正行為を認識しながら隠ぺいを行ったもの
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 役員等が実行又は関与(指示)していないもの
▲1月(期間)
⑤悪質性
【加重の視点】
 
● 当該不正行為につき、行政から職員の増員、利用定員等の見直し、事業の休止等の指導を受けているにも関わらず正当な理由なく指導に従っていないもの
+2級(態様)
● 監査時に、虚偽報告、虚偽答弁の事実が認められたもの
+1級(態様)
【軽減の視点】
 
● 事業所が不正行為の事実を知り得た時点で速やかに報告又は改善措置を取ったもの
▲1級(態様)
⑥過去5年の行政処分等
【加重の視点】
 
● 同一の不正行為について、命令又は指定の効力停止処分を受けているとき
+3級(態様)
● 同一の不正行為について、行政指導(勧告含む)を受けているとき
+1級(態様)
● 別の不正行為について、勧告、命令又は指定の効力の停止処分を受けているとき
+1級(態様)
● 不正行為を主導した者が他の事業所で不正行為を主導したことがあり、その事業所が当該不正行為により行政処分等を受けているとき
+1級(態様)
 

 
1 重大な過失、重過失については、マニュアル内「4.3.2故意、重過失、軽過失とは」を参照のこと
2 上記、重過失と同様
3 この役員等とは事業所の管理者も含まれる
 
(2) 運営基準違反
項目
内容
程度
①利用者被害、法益を侵害している様態・程度
【加重の視点】
 
● 利用者の生命又は身体の安全に重大な危害を及ぼすおそれのあるもの
+2級(態様)
● 本基準違反が次に掲げる場合その他の事業者が自己の利益を図るためのものであるとき
・ 介護サービスの提供に際して利用者が負担すべき額の支払を適正に受けなかったとき
・ 介護サービス提供事業者と居宅介護支援事業者間での金品その他の財産上の利益の供与又は収受に関するものであるとき
+2級(態様)
● 利用者の身体の安全に危害を及ぼすおそれのあるもの
+1級(態様)
②故意性
【加重の視点】
 
● 故意又は重大な過失に基づく行為
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 軽過失に基づく行為で情状をくむべき場合
▲1月(期間)
③常習性
【加重の視点】
 
● 違反状況の継続が1年以上の場合
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 違反状況の継続が3月以下の場合
▲1月(期間)
④組織性
【加重の視点】
 
● 役員等が実行又は関与(指示)していたもの
+1月(期間)
● 役員等が不正行為を認識しながら隠ぺいを行ったもの
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 役員等が実行又は関与(指示)していないもの
▲1月(期間)
⑤悪質性
【加重の視点】
 
● 基準違反が定員超過利用の場合であって、行政から定員の超過利用の解消の指導を受けているにも関わらず正当な理由がなく定員超過が2月以上継続しているとき
+2級(態様)
● 監査時に、虚偽報告、虚偽答弁の事実が認められたもの
+1級(態様)
【軽減の視点】
 
● 事業所が不正行為の事実を知り得た時点で速やかに報告又は改善措置を取ったもの
▲1級(態様)
⑥過去5年の行政処分等
【加重の視点】
 
● 同一の不正行為について、命令又は指定の効力停止処分を受けているとき
+3級(態様)
● 同一の不正行為について、行政指導(勧告含む)を受けているとき
+1級(態様)
● 別の不正行為について、勧告、命令又は指定の効力の停止処分を受けているとき
+1級(態様)
● 不正行為を主導した者が他の事業所で不正行為を主導したことがあり、その事業所が当該不正行為により行政処分等を受けているとき
+1級(態様)
 
(3) 人格尊重義務違反
項目
内容
程度
①利用者被害、法益を侵害している様態・程度
【加重の視点】
 
● 利用者の生命又は身体の安全に重大な危害を及ぼすもの
+1級(態様)
【軽減の視点】
 
● 利用者の生命又は身体の安全に危害を及ぼさないもの並びに利用者の財産を著しく侵害しないもの
▲1級(態様)
②故意性
【加重の視点】
 
● 故意又は重大な過失に基づく行為
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 軽過失に基づく行為で情状をくむべき場合
▲1月(期間)
③常習性
【加重の視点】
 
● 不正行為の継続が3月超の場合
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 不正行為の継続が3月以下の場合
▲1月(期間)
④組織性
【加重の視点】
 
● 役員等が実行又は関与(指示)していたもの
+1級(態様)
● 役員等が不正行為を認識しながら隠ぺいを行ったもの
+2月(期間)
【軽減の視点】
 
● 役員等が実行又は関与していないもの
▲1級(態様)
⑤悪質性
【加重の視点】
 
● 監査時に、虚偽報告、虚偽答弁の事実が認められたもの
+1級(態様)
【軽減の視点】
 
● 事業所として不正行為の事実を知り得た時点で速やかに報告又は改善措置を取ったもの
▲1級(態様)
⑥過去5年の行政処分等
【加重の視点】
 
● 同一の不正行為について、命令又は指定の効力停止処分を受けているとき
+1級(態様)
● 不正行為を主導した者が他の事業所で不正行為を主導したことがあり、その事業所が当該不正行為により行政処分等を受けているとき
+1級(態様)
● 同一の不正行為について、行政指導(勧告含む)を受けているとき
+4月(期間)
● 別の不正行為について、勧告、命令又は指定の効力の停止処分を受けているとき
+2月(期間)
 
(4) 不正請求
項目
内容
程度
①利用者被害、法益を侵害している様態・程度
【加重の視点】
 
● 不正請求額が事業所の年間収入(介護報酬及び利用者負担額)の概ね10%以上の場合
+1級(態様)
【軽減の視点】
 
● 不正請求額が事業所の年間収入の概ね1%未満の場合(ただし、不正請求の内容が明確な架空請求等、著しく悪質な場合は軽減の対象としないことができる。)
▲1級(態様)
②故意性
【加重の視点】
 
● 故意又は重大な過失に基づく行為
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 軽過失に基づく行為で情状をくむべき場合
▲1月(期間)
③常習性
【加重の視点】
 
● 不正行為の継続が1年以上の場合
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 不正行為の継続が3月以下の場合
▲1月(期間)
④組織性
【加重の視点】
 
● 役員等が実行又は関与(指示)していたもの
+1月(期間)
● 役員等が不正行為を認識しながら隠ぺいを行ったもの
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 役員等が実行又は関与していないもの
▲1月(期間)
⑤悪質性
【加重の視点】
 
● 監査時に、虚偽報告、虚偽答弁の事実が認められたもの
+1級(態様)
【軽減の視点】
 
● 事業所として不正行為の事実を知り得た時点で速やかに報告又は改善措置を取ったもの
▲1級(態様)
⑥過去5年の行政処分等
【加重の視点】
 
● 同一の不正行為について、命令又は指定の効力停止処分を受けているとき
+1級(態様)
● 不正行為を主導した者が他の事業所で不正行為を主導したことがあり、その事業所が当該不正行為により行政処分等を受けているとき
+1級(態様)
● 同一の不正行為について、行政指導(勧告含む)を受けているとき
+4月(期間)
● 別の不正行為について、勧告、命令又は指定の効力の停止処分を受けているとき
+2月(期間)
 
(5) 不正の手段による指定
項目
内容
程度
①利用者被害、法益を侵害している様態・程度
【加重の視点】
 
● 明らかに勤務することが不可能な者の名義を使用して指定申請を行うなど申請に重大明白な瑕疵があり、事業開始後も人員基準違反等の状態が継続していたもの
+1級(態様)
【軽減の視点】
 
● 指定申請時の勤務予定者が勤務できなくなったが申請の変更を行わず、そのまま指定を受けた場合で、事業開始時には人員基準違反等の状態が解消されていたもの
▲1級(態様)
②故意性
【加重の視点】
 
● 故意又は重大な過失に基づく行為
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 軽過失に基づく行為で情状をくむべき場合
▲1月(期間)
③常習性
-
 
④組織性
【加重の視点】
 
● 役員等が実行又は関与(指示)していたもの
+1月(期間)
● 役員等が不正行為を認識しながら隠ぺいを行ったもの
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 役員等が実行又は関与していないもの
▲1月(期間)
⑤悪質性
【加重の視点】
 
● 監査時に、虚偽報告、虚偽答弁の事実が認められたもの
+1級(態様)
● 不正の手段による指定申請に起因する基準違反等の継続が3月超の場合
+1月(期間)
【軽減の視点】
 
● 事業所として不正行為の事実を知り得た時点で速やかに報告又は改善措置を取ったもの
▲1級(態様)
● 不正の手段による指定申請に起因する基準違反等の継続が3月以下の場合
▲1月(期間)
⑥過去5年の行政処分等
【加重の視点】
 
● 同一の不正行為について、命令又は指定の効力停止処分を受けているとき
+1級(態様)
● 不正行為を主導した者が他の事業所で不正行為を主導したことがあり、その事業所が当該不正行為により行政処分等を受けているとき
+1級(態様)
● 同一の不正行為について、行政指導(勧告含む)を受けているとき
+4月(期間)
● 別の不正行為について、勧告、命令又は指定の効力の停止処分を受けているとき
+2月(期間)
 
5. 利用者保護及び事業所運営体制等による変更(全処分事由共通)
前述までのとおり、事由により定めた基本的な処分程度に加重、軽減を行った後、さらに利用者保護や運営体制に対する評価を行います。この評価は全処分事由に共通なものです。
項目
内容
変更程度
①利用者保護
● 指定取消又は指定の全部効力停止相当であるが、代替サービスの確保の見込みが立たず、利用者へのサービス継続の必要性の観点から当該事業所の運営継続がやむを得ないと判断される場合であって、不正行為の要因が除去され、適切なサービス提供が行われる見込みがあるとき
指定取消又は指定の全部効力停止を一部効力停止へ変更
②運営体制等4
● 勧告(指導)相当であるが、事業者の役員又は事業所の管理者の法令等の知識が欠如、職員の介護に関する知識・技術が欠如又は組織体としての運営体制の不備等により、新規利用者を受け入れる状態にないと見込まれる場合であって、役員等に改善の意思があり一定の期間を経て改善される見込みがあるとき
勧告(指導)を一部効力停止へ変更
● 勧告(指導)又は指定の一部効力停止相当であるが、事業者の役員又は事業所の管理者の法令等の知識が甚だしく欠如、職員の介護に関する知識・技術が著しく欠如又は組織体としての運営体制の著しい不備等により、現行の状態での事業継続が利用者への不利益へとつながるおそれがあることから事業を継続させることが適当でないと見込まれる場合であって、役員等に改善の意思があり一定の期間を経て改善される見込みがあるとき
勧告(指導)又は指定の一部効力停止を全部停止へ変更
● 上記の場合又は指定の全部効力停止相当であって、役員等に改善の意思が見られず改善される見込みがないとき
勧告(指導)並びに指定の一部又は全部効力停止を指定取消へ変更する例
 

 
4 この「運営体制等」については、監査の結果、運営基準違反(人員基準違反)のため、本来であれば勧告すべきものであるが、当該事業所に対して加重するか否かを検討するべき事項を意味する。
 
6. その他の留意点
行政処分程度を決定するにあたり、以下の点についても留意が必要となります。
 
(1) 人員基準違反及び運営基準違反の場合
法の規定では、「条例で定める員数を満たすことができなくなったとき」及び「基準に従って適正な指定居宅サービスの事業の運営をすることができなくなったとき」とされていることから、監査時以前の過去の一時期に基準違反があったが監査時には基準が満たされているという場合には、行政処分等の事由には該当しません。ただし、人員基準違反に起因する不正請求等は当然のことながら行政処分等の事由に該当します。
 
(2) 不正請求の場合
サービス提供記録等が全部又は一部存在しない並びに不備がある場合等は、明確に運営基準に違反していると考えられますが、不正請求と認定するにあたっては、関係者の証言や他の諸記録との整合性等を調査し、サービス提供が不可能であったことを確認できるか否か判断を行うことが必要となります。
この場合、経験則による不正請求の推認5を行うことも可能ですが、事業者側に特段の主張がないか確認しておくことも慎重な判断を行う上での一助になると考えられます。
 
(3) 不正の手段による指定の場合
不正の手段による指定を処分事由として指定取消を行う場合は、原則として指定時に遡り指定の効力が取り消されるものであり(その他の処分事由による指定取消は、処分日から指定の効力が取り消される)、指定後に受領した介護報酬等は全額返還対象となります。
なお、不正の手段による申請を処分事由として指定の全部又は一部効力停止を行う場合は、指定の効力は処分日(効力発生日)から停止されます。
 

 
5 監査マニュアルの「4.3.3不正認定について」も参照のこと
 
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