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「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」について
事務連絡
「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」について
事務連絡
「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」について (事務連絡)
発出日:平成31年4月10日
更新日:平成31年4月10日
更新日:平成31年4月10日
事 務 連 絡
平成31年4月10日
都道府県
各 指定都市 介護保険担当主管課(室) 御中
中 核 市
厚生労働省老健局振興課
「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」について
介護保険行政の推進につきましては、日頃よりご尽力を賜り厚く御礼申し上げます。
今般、平成30年度厚生労働省老人保健健康増進等事業(介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業(実施団体:株式会社 三菱総合研究所))において、有識者で構成される検討委員会での議論を踏まえ、標記の介護事業者向けのマニュアルが作成されました。
各都道府県等におかれましては、本マニュアルについて、貴管内の介護事業者、市町村、関係団体、関係機関等に対して周知いただくなど、介護事業者において、介護現場におけるハラスメント対策が進むようご協力をお願いいたします。
なお、本調査研究事業の報告書は以下の実施団体のウェブサイトに掲載されておりますので、あわせてご参照下さい。
【担当】
厚生労働省老健局振興課基準第一係
TEL:03-5253-1111(内線3983)
介護現場におけるハラスメント対策マニュアル
平成31(2019)年3月
株式会社 三菱総合研究所
はじめに……………………………………………………………………………………………………1
(1)背景………………………………………………………………………………………………1
(2)目的………………………………………………………………………………………………1
(3)マニュアルの使い方……………………………………………………………………………1
(4)本マニュアルにおける用語の使い方…………………………………………………………2
(5)マニュアルの作成方法等………………………………………………………………………4
1.介護現場における利用者や家族等によるハラスメントの実態…………………………………5
1.1 ハラスメントの実態とその影響……………………………………………………………5
(1)ハラスメントの実態…………………………………………………………………………5
(2)ハラスメントによる職員への影響…………………………………………………………6
(3)ハラスメントの発生要因や取り組みに向けた課題について……………………………7
1.2 ハラスメントに関する介護事業者としての把握状況……………………………………8
(1)介護事業者による把握状況…………………………………………………………………8
(2)介護事業者におけるハラスメントへの対応………………………………………………9
(3)労働団体や事業者団体の取り組み…………………………………………………………10
1.3 職員から見たハラスメントの対応として必要な取り組み………………………………11
2.介護現場におけるハラスメント対策の必要性等…………………………………………………12
(1)ハラスメント対策の必要性……………………………………………………………………12
(2)ハラスメント対策の基本的な考え方…………………………………………………………12
3.ハラスメント対応として事業者が具体的に取り組むべきこと…………………………………13
(1)事業者自身として取り組むべきこと…………………………………………………………13
(2)職員に対して取り組むべきこと………………………………………………………………20
(3)関係者との連携に向けて取り組むべきこと…………………………………………………23
おわりに……………………………………………………………………………………………………23
参考1:ハラスメント予防や対応のための職員のチェック項目……………………………………24
参考2:介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業実態調査の概要…………………26
参考3:介護現場におけるハラスメントに関連する参考文献等……………………………………27
(1)背景
今後の日本社会のさらなる高齢化に対応するため、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される「地域包括ケアシステム」の構築に向け、最重要な基盤の一つである介護人材を安定的に確保し、介護職員が安心して働くことのできる職場環境・労働環境を整えることが必要不可欠です。
しかし、近年、介護現場では、利用者や家族等による介護職員への身体的暴力や精神的暴力、セクシュアルハラスメントなどが少なからず発生していることが様々な調査で明らかとなっています。
これは、介護サービスは直接的な対人サービスが多く、利用者宅への単身の訪問や利用者の身体への接触も多いこと、職員の女性の割合が高いこと、生活の質や健康に直接関係するサービスであり安易に中止できないこと等と関連があると考えられます。
平成29年度には、全産業を対象とした、主に職場における上司、同僚等によるハラスメントについて「職場におけるハラスメント対策マニュアル」(厚生労働省 平成29年9月)及び「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」(厚生労働省 平成30年3月)が公表されていますが、利用者・家族等からのハラスメント対策については職場におけるハラスメントとは異なる課題として取り組む必要があります。
ハラスメントは介護職員への影響だけでなく、利用者自身の継続的で円滑な介護サービス利用の支障にもなり得ます。
そこで、このたび、介護現場における利用者や家族等からのハラスメントの実態を調査するとともに、介護職員が安心して働くことができるハラスメントのない労働環境を構築するためのハラスメント対策マニュアルを作成することとしました。
(2)目的
本マニュアルは、介護現場における利用者や家族等によるハラスメントの実態を伝えるとともに、事業者として取り組むべき対策などを示すことにより、介護現場で働く職員の安全を確保し、安心して働き続けられる労働環境を築くための一助となること、ひいては人材の確保・定着につながることを目的としています。
(3)マニュアルの使い方
【本マニュアルの対象】
本マニュアルは、主に、介護事業者(事業主・管理者)、その他介護事業の関係者を対象に作成しています。
【本マニュアルの想定している使い方】
本マニュアルは、以下のような使い方を想定しています。
〇介護事業者が、介護現場におけるハラスメントの実態を把握するとともに、各事業所において対策を講じるための基礎的な資料
〇介護事業者が、職員に対し、介護現場におけるハラスメントの未然防止や発生時の対策についての研修等を行うための基礎的な資料(特に「参考1:ハラスメント予防や対応のための職員のチェック項目」(24頁)は職員への配布用資料として活用することを想定しています)
〇介護サービス、疾病・障害、法律等に関連する行政や関係機関その他の関係者が、介護現場におけるハラスメントの実態を把握し、その対策や介護事業者との連携の必要性を理解するための基礎的な資料
(4)本マニュアルにおける用語の使い方
①本マニュアルにおける介護現場におけるハラスメントの定義
ハラスメントについては、確定した定義はありませんが、本マニュアルでは、身体的暴力、精神的暴力及びセクシュアルハラスメントをあわせて介護現場におけるハラスメントとしています。具体的には、先行の調査研究を参考に次頁の表に示した行為を「ハラスメント※1」と総称しています。
「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業実態調査」についても、この考え方を示しつつ調査を実施し、その主な結果を「1.介護現場における利用者や家族等によるハラスメントの実態」として整理しています。
なお、利用者や家族等からの苦情の申し立て及び介護サービス施設・事業所での上司や同僚等によるハラスメントに関しては、この調査の目的と異なるため、対象外としています。
※1認知症等の病気や障害のある方による行為も含みます。
本マニュアルにおける介護現場におけるハラスメントの定義
1)身体的暴力
身体的な力を使って危害を及ぼす行為。(職員が回避したため危害を免れたケースを含む)
例:○コップをなげつける
○蹴られる
○手を払いのけられる
|
○たたかれる
○手をひっかく、つねる
○首を絞める
|
○唾を吐く
○服を引きちぎられる
|
2)精神的暴力
個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為。
例:○大声を発する
○サービスの状況をのぞき見する
○怒鳴る
○気に入っているホームヘルパー以外に批判的な言動をする
○威圧的な態度で文句を言い続ける
○刃物を胸元からちらつかせる
○「この程度できて当然」と理不尽なサービスを要求する
○利用者の夫が「自分の食事も一緒に作れ」と強要する
|
○家族が利用者の発言をうのみにし、理不尽な要求をする
○訪問時不在のことが多く書置きを残すと「予定通りサービスがなされていない」として、謝罪して正座するよう強く求める
○「たくさん保険料を支払っている」と大掃除を強要、断ると文句を言う
○利用料金の支払を求めたところ、手渡しせずに、お金を床に並べてそれを拾って受け取るように求められた。
○利用料金を数か月滞納。「請求しなかった事業所にも責任がある」と支払いを拒否する
○特定の訪問介護員にいやがらせをする
|
3)セクシュアルハラスメント
意に添わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等、性的ないやがらせ行為。
例:○必要もなく手や腕をさわる
○抱きしめる
○女性のヌード写真を見せる
○入浴介助中、あからさまに性的な話をする
|
○卑猥な言動を繰り返す
○サービス提供に無関係に下半身を丸出しにして見せる
○活動中のホームヘルパーのジャージに手を入れる
|
出所:「訪問看護師・訪問介護員が受ける暴力等対策マニュアル(公益社団法人兵庫県看護協会、兵庫県)」をもとに三菱総合研究所が作成
注:「パワーハラスメント」は、一般的に職場の上司・部下、先輩・後輩などの職場内における立場の優位性の下での行為を表現する用語であるため、今回の実態調査や本マニュアルでは「パワーハラスメント」という用語は使っていません。
②本マニュアルにおける用語の使い方
本マニュアルにおける管理職、職員については、以下の意味で使っています。
用語
|
意味
|
管理者
|
介護現場でのハラスメントの実態や取り組みについて把握している方
|
職員
|
直接処遇職員(介護職員等、利用者のケアに直接関わる職員)
|
(5)マニュアルの作成方法等
本マニュアルは、平成30年度厚生労働省老人保健健康増進等事業「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究」委員会のもと、管理者や職員を対象とした実態調査等の結果を含めて整理したものです。委員会の構成員は以下のとおりです。
<委員長> (敬称略)
村木 厚子 津田塾大学総合政策学部 客員教授
<委 員> (50音順 敬称略)
青木 文江 日本ホームヘルパー協会 会長
阿部 佳世 公益社団法人認知症の人と家族の会 理事・事務局長
神谷 洋美 全国ホームヘルパー協議会 会長
清崎 由美子 一般社団法人全国訪問看護事業協会 事務局長
黒木 悦子 民間介護事業推進委員会 代表委員
斎藤 秀樹 公益財団法人全国老人クラブ連合会 常務理事
髙村 浩 髙村浩法律事務所 弁護士
津曲 共和 兵庫県健康福祉部少子高齢局 高齢政策課長
中林 弘明 一般社団法人日本介護支援専門員協会 常任理事
藤野 裕子 公益社団法人日本介護福祉士会 副会長
峯田 幸悦 公益社団法人全国老人福祉施設協議会 副会長
村上 久美子 UAゼンセン日本介護クラフトユニオン 副事務局長
1.介護現場における利用者や家族等によるハラスメントの実態
1.1 ハラスメントの実態とその影響
(1)ハラスメントの実態
・ 施設・事業所に勤務する職員のうち、利用者や家族等から、身体的暴力や精神的暴力、セクシュアルハラスメントなどのハラスメントを受けた経験のある職員は、サービス種別により違いはあるものの、利用者からでは4~7割、家族等からでは1~3割になっています。この1年間(平成30年)で見ると、利用者からのハラスメントを受けたことのある職員は、割合が高いサービスで6割程度、低いサービスで2割程度となっており、いずれのサービス種別においても、ハラスメントを受けている実態がうかがえます。
注:回収率等は下記の注釈を参照。
図表1 ハラスメントを受けたことのある職員の割合(単位:%)
(上がこれまで、下がこの1年間(平成30年、(n=10112))
利用者から
|
|
家族等から
|
出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(職員)
注:ハラスメントの実態のデータは、「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業実態調査」(管理者票と職員票の2種類を実施)の結果です。詳細は参考2をご覧ください。なお、管理者票は、調査対象が10,000施設・事業所、回収率がサービス種別合計で21.6%でした。職員票は、10,000施設・事業所の職員を対象に、管理者等にご協力をいただき、約10,000人の回答を得ました。
・ 利用者からのハラスメントの内容をみると、訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所介護、居宅介護支援等では、「精神的暴力」が最も多く、特定施設入居者生活介護や介護老人福祉施設、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護では、「身体的暴力」が最も多くなっています。
・ 訪問系サービスは、「精神的暴力」の割合が高い傾向がみられ、入所・入居施設は、「身体的暴力」及び「精神的暴力」のいずれも高い傾向となっている。
図表2 職員がこの1年間で利用者からハラスメントを受けた内容の割合(複数回答)(n=3113)
身体的暴力
(%)
|
精神的暴力
(%)
|
セクシュアルハラスメント
(%)
|
その他
(%)
|
該当者数
(人)
|
|
訪問介護
|
41.8
|
81.0
|
36.8
|
3.2
|
840
|
訪問看護
|
45.4
|
61.8
|
53.4
|
3.4
|
262
|
訪問リハビリテーション
|
51.8
|
59.9
|
40.1
|
4.5
|
222
|
通所介護
|
67.9
|
73.4
|
49.4
|
1.7
|
237
|
特定施設入居者生活介護
|
81.9
|
76.1
|
35.6
|
3.4
|
326
|
居宅介護支援
|
41.0
|
73.7
|
36.9
|
4.1
|
217
|
介護老人福祉施設
|
90.3
|
70.6
|
30.2
|
2.2
|
629
|
認知症対応型通所介護
|
86.8
|
73.7
|
33.3
|
1.8
|
114
|
小規模多機能型居宅介護
|
74.7
|
71.9
|
32.9
|
2.7
|
146
|
定期巡回・随時対応型訪問介護看護
|
59.7
|
72.0
|
37.1
|
4.8
|
186
|
看護小規模多機能型居宅介護
|
72.6
|
71.8
|
31.1
|
3.7
|
241
|
地域密着型通所介護
|
58.4
|
70.1
|
48.0
|
2.8
|
358
|
注:色のある項目は、サービス種別の上位1項目。
出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(職員)
(2)ハラスメントによる職員への影響
・ ハラスメントを受けたことにより、けがや病気になった職員は1~2割、仕事を辞めたいと思ったことのある職員は、2~4割となっています。
図表3 ハラスメントを受けてけがや病気になった職員、仕事を辞めたいと思った職員の割合
(ハラスメントを受けたことのある方に対する割合)(単位:%)(n=5515)
出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(職員)
(3)ハラスメントの発生要因や取り組みに向けた課題について
①実態調査から見た発生要因や取り組みに向けた課題
・ ハラスメントが発生する要因について、管理者等は、「利用者・家族等の性格又は生活歴」、「利用者・家族等がサービスの範囲を理解していないから」、「利用者・家族等がサービスへ過剰な期待をしているから」、「利用者・家族等の認知症等の病気又は障害によるものであるから」等を上位にあげています。(図表4)
・ 利用者・家族等からのハラスメントの未然防止や解決に向けた取り組みを行う上での課題について、管理者等は、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」が最も多くなっています。
図表4 管理者等から見た利用者・家族等からのハラスメントが発生する原因と考えられること(複数回答)
(単位:%)(n=2155)(サービス種別で上位3項目に入った選択肢のみ掲載)
|
利用者・家族等がサービスへ過剰な期待をしているから
|
利用者・家族等がサービスの範囲を理解していないから
|
利用者・家族等に認知症等の病気又は障害によるものであるから
|
利用者・家族等の性格又は生活歴
|
訪問介護
|
48.6
|
60.0
|
49.4
|
55.4
|
訪問看護
|
46.7
|
44.3
|
59.0
|
68.0
|
訪問リハビリテーション
|
42.7
|
47.7
|
50.4
|
51.2
|
通所介護
|
47.6
|
51.7
|
46.3
|
52.4
|
特定施設入居者生活介護
|
48.6
|
48.6
|
54.2
|
51.4
|
居宅介護支援
|
54.2
|
56.2
|
50.1
|
61.2
|
介護老人福祉施設
|
50.8
|
58.5
|
55.4
|
55.4
|
認知症対応型通所介護
|
39.3
|
44.6
|
55.4
|
46.4
|
小規模多機能型居宅介護
|
50.0
|
47.0
|
50.0
|
53.0
|
定期巡回・随時対応型訪問介護看護
|
67.1
|
68.5
|
53.4
|
64.4
|
看護小規模多機能型居宅介護
|
59.7
|
59.7
|
47.8
|
56.7
|
地域密着型通所介護
|
38.1
|
42.3
|
44.4
|
51.7
|
注:選択肢は全部で「その他」を含め16項目ある。色のある項目は、サービス種別の上位3項目。
出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(管理者)
②ヒアリングに見る発生要因等
・ ヒアリングによれば、職員が利用者・家族等からハラスメントを受けても管理者等が十分に話を聞くことができていない、職員の側に問題があるかのように対応するケースがある、ハラスメントを受けたことを相談しにくい雰囲気が職場にあるとの意見もあります。また、職員が自分さえ我慢すればおさまる、自分が未熟だから等と考え、ハラスメントを受けても自分の中だけで抱え込んでしまいがちになるといった意見もあります。
・ 一方で、注意をしてもハラスメントが続く利用者については、契約解除と次の介護事業者への紹介が繰り返されることもあります。
法人C(訪問看護等)
ケアの現場において暴力や暴言、セクシュアルハラスメントがあっても、職員が、それらを暴力や暴言、セクシュアルハラスメントととらえていない結果として、相談が上がってこない面があると思います。一部の事業所では、職員から相談を受けた管理者が「がまんして、訪問しろ」ぐらいのことを言っていると聞きます。やむを得ず、我慢して訪問をしている人は多いのではないでしょうか。介護の現場で働く人は親切な人が多く、そのことが、我慢につながっている面もあるのではないでしょうか。
1.2 ハラスメントに関する介護事業者としての把握状況
(1)介護事業者による把握状況
・ 利用者・家族等からの職員に対するハラスメントについて、介護事業者の把握状況を見ると、サービス種別で異なるものの3~5割程度の事業者が「ハラスメントの発生を把握している」、3~6割が「ハラスメントは発生していない」と回答しています。一方で、「ハラスメントの有無を把握できていない」事業者が1割程度となっています。(図表5)
・ 職員がハラスメントを受けた場合の相談状況を見ると、サービス種別により多少の違いはあるものの、「ハラスメントを受けた際には些細な内容でも相談した」ケースは2~5割程度、「ハラスメントを受けた際に相談しなかった」ケースは2割~4割程度となっています。(図表6)
図表5 事業者としてのハラスメントの発生の把握状況等(単位:%)(n=2155)
出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(管理者)
図表6 ハラスメントを受けた職員の相談状況(単位:%)(n=5514)
出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(職員)
(2)介護事業者におけるハラスメントへの対応
・ 事業者における防止対策では、「利用者・家族等の様々な状況からハラスメントのリスクを施設・事業所内で検討する体制がある」、「特定の職員が長期間固定して特定の利用者を担当することがないように職員配置している」、「同性介助が実施できるように職員配置している」、「ハラスメントの発生ケースを振返り施設・事業所内で再発防止を検討する体制がある」などの取り組みが行われていますが、それらの取り組みを行っている事業者は、概ね半分以下にとどまっています。一方、「安全確認の為、施設・事業所から施設・事業所外にいる職員に連絡するシステムがある」、「ハラスメントの発生ケースについて必ず利用者の主治医に報告し連携をとる体制がある」、「ハラスメントの発生ケースについて保険者と情報共有し、連携協力して対応する体制がある」、「苦情対応に当たっては、対応する職員および利用者・家族等の双方の言動がエスカレートしないよう、対応方法について定期的に職員研修を実施している」などを行っている事業者は、サービスにより異なるものの、多くても3割程度にとどまっています。(図表7)
・ ハラスメント発生時の対応方法としては、「施設・事業所として把握した際、ハラスメントの事実確認を行う」、「職員と具体的対応について話し合う場を設定する」、「職員に今後の対応について明確に示す」、「利用者・家族等と速やかに話し合いを行い、再発防止策を検討する」などを行っています。(図表8)
・ 事業者によるハラスメントの防止対策の整備状況と発生時の対応方法を比較すると、発生時の対応方法に取り組んでいる事業者の割合は比較的高いものの、防止対策に取り組む事業者の割合は低くなっています。
・ ヒアリングによれば、防止対策として、職員への研修の実施や、契約時等において利用者・家族等にハラスメントを許容しないこと、契約の解除がありうること等を説明している事業者もあります。
図表7 事業者によるハラスメントの防止対策の整備状況(n=2155)
|
利用者・家族等の様々な状況からハラスメントのリスクを施設・事業所内で検討する体制がある(攻撃的な態度やハラスメント行為の前歴を確認するなど)
|
ハラスメント発生のリスクが高い場合、加算の対象となる複数人で対応する体制としている
|
ケアを行う担当者以外の職員(ケアに携わらない職員)も適宜同行又は同席して対応できるように職員配置している
|
特定の職員が長期間固定して特定の利用者を担当することがないように職員配置している
|
特定の職員が長期間固定して特定の利用者を担当することがないように、適宜、他の施設・事業所と分担してサービスを提供している
|
同性介助が実施できるように職員配置している
|
安全確認の為、施設・事業所から施設・事業所外にいる職員に連絡をするシステムがある
|
ハラスメントのリスクマネジメントを行う病院や委員会と連携している
|
ハラスメントの発生ケースを振返り施設・事業所内で再発防止を検討する体制がある
|
ハラスメントの発生ケースについて他の事業者と情報共有する体制がある
|
ハラスメントの発生ケースについて必ず利用者の主治医に報告し連携をとる体制がある
|
ハラスメントの発生ケースについて保険者と情報共有し、連携協力して対応する体制がある
|
施設・事業所の広告等において異性をひきつける表現にならないよう注意している
|
苦情対応に当たっては、不適切な対応となり、ハラスメントに発展しないよう複数の職員が同席して対応している
|
苦情対応に当たっては、対応する職員および利用者・家族等の双方の言動がエスカレートしないよう、対応方法について定期的に職員研修を実施している
|
特にない
|
訪問介護
|
45.7
|
16.6
|
32.9
|
45.7
|
14.8
|
18.3
|
22.1
|
2.6
|
28.9
|
33.6
|
8.2
|
15.5
|
9.3
|
22.3
|
20.8
|
7.9
|
訪問看護
|
43.4
|
40.2
|
37.7
|
46.7
|
10.7
|
9.8
|
21.3
|
7.4
|
33.6
|
32.8
|
23.0
|
9.8
|
9.0
|
26.2
|
14.8
|
4.9
|
訪問リハビリテーション
|
48.1
|
18.5
|
18.1
|
23.1
|
8.5
|
19.2
|
25.4
|
17.7
|
30.0
|
26.9
|
17.3
|
11.2
|
11.2
|
20.8
|
15.4
|
18.1
|
通所介護
|
45.6
|
8.8
|
29.3
|
34.0
|
15.0
|
40.1
|
15.0
|
4.1
|
34.7
|
23.8
|
5.4
|
8.8
|
10.9
|
24.5
|
16.3
|
10.2
|
特定施設入居者生活介護
|
54.2
|
9.7
|
29.2
|
50.0
|
15.3
|
23.6
|
22.2
|
6.9
|
50.0
|
20.8
|
29.2
|
13.9
|
8.3
|
40.3
|
23.6
|
6.9
|
居宅介護支援
|
42.4
|
11.1
|
24.6
|
11.5
|
3.6
|
7.7
|
13.5
|
5.9
|
23.7
|
25.3
|
8.8
|
21.2
|
3.2
|
17.6
|
15.1
|
21.2
|
介護老人福祉施設
|
46.2
|
13.8
|
26.2
|
35.4
|
15.4
|
20.0
|
6.2
|
12.3
|
41.5
|
18.5
|
6.2
|
12.3
|
4.6
|
61.5
|
27.7
|
6.2
|
認知症対応型通所介護
|
41.1
|
7.1
|
26.8
|
32.1
|
10.7
|
42.9
|
30.4
|
7.1
|
32.1
|
19.6
|
12.5
|
14.3
|
3.6
|
19.6
|
8.9
|
10.7
|
小規模多機能型居宅介護
|
45.5
|
16.7
|
28.8
|
50.0
|
12.1
|
40.9
|
33.3
|
7.6
|
34.8
|
19.7
|
13.6
|
21.2
|
18.2
|
36.4
|
22.7
|
7.6
|
定期巡回・随時対応型訪問介護看護
|
65.8
|
20.5
|
35.6
|
50.7
|
16.4
|
24.7
|
27.4
|
9.6
|
45.2
|
31.5
|
11.0
|
15.1
|
1.4
|
37.0
|
32.9
|
6.8
|
看護小規模多機能型居宅介護
|
50.7
|
19.4
|
34.3
|
52.2
|
19.4
|
35.8
|
28.4
|
6.0
|
34.3
|
16.4
|
28.4
|
14.9
|
4.5
|
31.3
|
19.4
|
9.0
|
地域密着型通所介護
|
46.5
|
9.7
|
27.5
|
30.8
|
7.9
|
30.5
|
16.9
|
2.4
|
29.6
|
21.5
|
6.0
|
12.4
|
6.3
|
18.4
|
13.9
|
14.8
|
注:色のある項目は、サービス種別で上位3項目。「その他」を除いて表示。
出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(管理者)
図表8 事業者によるハラスメント発生時の対応方法(n=2155)
|
施設・事業所として把握した際、ハラスメントの事実確認を行う
|
職員に今後の対応について明確に示す
|
職員と具体的対応について話し合う場を設定する
|
ハラスメントの情報を他の施設・事業所と共有し、連携して対応を行う
|
ハラスメントの情報を保険者と共有し、連携して対応を行う
|
再発防止策を実施できるまでは、加算の対象となる複数人で対応する体制をとる
|
再発防止策を実施できるまでは、ケアを行う担当者以外の職員(ケアに携わらない職員)も同行又は同席する
|
被害を受けた職員は関わらないよう調整する
|
利用者・家族等と速やかに話し合いを行い、再発防止策を検討する
|
別の施設・事業所を紹介するとともに利用者の合意のもと契約を解除する
|
訪問介護
|
84.5
|
79.0
|
81.9
|
47.5
|
24.7
|
10.4
|
24.3
|
57.2
|
62.0
|
14.6
|
訪問看護
|
81.1
|
80.3
|
85.2
|
50.8
|
17.2
|
28.7
|
28.7
|
59.8
|
53.3
|
19.7
|
訪問リハビリテーション
|
85.0
|
77.7
|
78.1
|
51.9
|
20.4
|
15.0
|
20.0
|
51.9
|
58.5
|
19.2
|
通所介護
|
78.9
|
72.1
|
77.6
|
43.5
|
19.7
|
6.1
|
20.4
|
38.1
|
52.4
|
6.1
|
特定施設入居者生活介護
|
90.3
|
72.2
|
75.0
|
36.1
|
16.7
|
2.8
|
25.0
|
45.8
|
79.2
|
11.1
|
居宅介護支援
|
80.6
|
63.7
|
76.5
|
42.7
|
33.0
|
7.9
|
22.6
|
30.0
|
55.5
|
16.7
|
介護老人福祉施設
|
86.2
|
72.3
|
86.2
|
36.9
|
21.5
|
13.8
|
26.2
|
47.7
|
69.2
|
6.2
|
認知症対応型通所介護
|
82.1
|
71.4
|
80.4
|
46.4
|
17.9
|
10.7
|
14.3
|
26.8
|
57.1
|
|
小規模多機能型居宅介護
|
86.4
|
77.3
|
84.8
|
34.8
|
33.3
|
13.6
|
34.8
|
47.0
|
59.1
|
6.1
|
定期巡回・随時対応型訪問介護看護
|
89.0
|
78.1
|
75.3
|
52.1
|
24.7
|
13.7
|
21.9
|
50.7
|
63.0
|
20.5
|
看護小規模多機能型居宅介護
|
86.6
|
80.6
|
80.6
|
28.4
|
23.9
|
11.9
|
25.4
|
49.3
|
73.1
|
20.9
|
地域密着型通所介護
|
81.9
|
75.2
|
78.2
|
34.7
|
21.1
|
4.5
|
18.7
|
34.4
|
58.3
|
10.0
|
注:色のある項目は、サービス種別で上位3項目。選択項目のうち「特にない」「その他」を除いて表示。
出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(管理者)
(3)労働団体や事業者団体の取り組み
・ UAゼンセン日本介護クラフトユニオンでは、ハラスメント防止の第1歩として、「ご利用者やそのご家族からのハラスメント行為の問題を重要かつ緊急の課題であることを認識するとともに、その防止について定め、ハラスメントのない快適な職場環境の実現に努力し、もって介護従事者の社会的地位向上に資することを目的」(ご利用者・ご家族からのハラスメント防止に関する集団協定書 UAゼンセン日本介護クラフトユニオン資料)に、法人と利用者や家族からのハラスメント防止の協定を結ぶ取り組みを始めています。
・ また、一般社団法人全国訪問看護事業協会では、ハラスメントの予防と対応に関する調査結果や様々な知見をもとに執筆、編著した書籍を出版しています。
1.3 職員から見たハラスメントの対応として必要な取り組み
・ 職員は、ハラスメントへの対応として、「利用者・家族等と事業者・施設による相互的な確認」、「相談しやすい組織体制の整備」、「事業者内での情報共有」、「利用者・家族等への啓発活動」などを必要と感じています。(図表9)
・ 利用者・家族等からハラスメントを受けた場合に、施設・事業所に希望する対応としては、「ハラスメントの報告をした際、今後の対応について明確に示して欲しい」、「具体的な対応について話し合う場が欲しい」、「利用者・家族等へ注意喚起し、再発防止に努めて欲しい」のほか、「ハラスメントの報告をした際、事実を認めて欲しい」なども多くなっています。(図表10)
・ 事業者のハラスメント発生時の防止対策の整備状況や対応方法への回答を比較すると、職員は、相談しやすい体制と今後の対応への明確な方針の提示、事業者内での情報共有、利用者・家族等への啓発や再発防止の働きかけなどを、特に求めていると考えられます。
図表9 利用者・家族等からのハラスメントの対応として必要なこと(複数回答)(単位:%)
(サービス種別で上位5項目に入った選択肢のみに絞って掲載)(n=10112)
|
利用者・家族等への啓発活動
|
利用者・家族等と事業所・施設による相互的な確認
|
相談しやすい組織体制の整備
|
事業所内での情報共有
|
職員の医療・介護技術の向上
|
ハラスメント対策に関する法制度等の整備
|
回答数
|
訪問介護
|
33.7
|
46.9
|
53.3
|
55.8
|
21.3
|
22.7
|
2532
|
訪問看護
|
40.4
|
56.1
|
63.6
|
67.8
|
28.8
|
35.6
|
706
|
訪問リハビリテーション
|
37.0
|
57.5
|
59.3
|
61.9
|
32.0
|
31.2
|
901
|
通所介護
|
29.6
|
46.3
|
53.9
|
52.4
|
26.6
|
21.2
|
655
|
特定施設入居者生活介護
|
32.2
|
50.5
|
51.0
|
45.3
|
30.3
|
26.4
|
673
|
居宅介護支援
|
39.0
|
49.3
|
56.1
|
58.2
|
21.9
|
32.4
|
959
|
介護老人福祉施設
|
27.6
|
46.6
|
52.2
|
44.0
|
31.3
|
28.7
|
1010
|
認知症対応型通所介護
|
28.5
|
47.3
|
56.0
|
57.0
|
37.7
|
25.1
|
207
|
小規模多機能型居宅介護
|
31.7
|
51.8
|
57.2
|
59.2
|
29.2
|
26.6
|
353
|
定期巡回・随時対応型訪問介護看護
|
38.6
|
51.0
|
51.9
|
55.6
|
28.0
|
32.9
|
414
|
看護小規模多機能型居宅介護
|
36.1
|
55.2
|
57.5
|
59.0
|
39.1
|
27.0
|
529
|
地域密着型通所介護
|
29.4
|
47.7
|
50.4
|
53.6
|
24.6
|
25.5
|
1173
|
注:選択項目のうちサービス種別上位5項目となった項目のみを選択。選択項目は他に、「管理者向けのハラスメント対策のマニュアルの整備」「管理者向けのハラスメント対策の教育」「保険者(自治体)の支援・相談体制の構築・強化」「特にない」「その他」。色のある項目は、サービス種別で上位5項目。
出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(職員)
図表10 利用者・家族等からハラスメントを受けた場合に施設・事業所に希望する対応
(複数回答)(単位:%)(n=10112)
|
ハラスメントの報告をした際、事実を認めて欲しい
|
ハラスメントの報告をした際、今後の対応について明確に示して欲しい
|
具体的な対応について話し合う場が欲しい
|
他の機関や施設・事業所と情報共有を行い、適切な対応を取って欲しい
|
複数人で対応するなどの対応を取って欲しい
|
担当を変えるなどの対応を取って欲しい
|
利用者・家族等へ注意喚起し、再発防止に努めて欲しい
|
回答数
|
訪問介護
|
36.9
|
58.3
|
41.6
|
29.5
|
34.1
|
35.1
|
42.3
|
2532
|
訪問看護
|
42.4
|
65.0
|
52.8
|
46.3
|
56.8
|
46.6
|
50.1
|
706
|
訪問リハビリテーション
|
37.6
|
65.3
|
48.1
|
38.8
|
41.2
|
44.7
|
42.0
|
901
|
通所介護
|
35.3
|
53.4
|
41.2
|
28.4
|
34.2
|
18.5
|
39.8
|
655
|
特定施設入居者生活介護
|
37.4
|
59.4
|
40.4
|
21.0
|
30.9
|
19.0
|
41.8
|
673
|
居宅介護支援
|
34.8
|
58.5
|
50.3
|
36.9
|
44.8
|
38.3
|
38.1
|
959
|
介護老人福祉施設
|
37.1
|
56.9
|
42.1
|
26.9
|
33.8
|
20.0
|
37.3
|
1010
|
認知症対応型通所介護
|
41.1
|
60.4
|
49.3
|
26.1
|
40.6
|
20.3
|
32.9
|
207
|
小規模多機能型居宅介護
|
37.4
|
59.5
|
48.4
|
28.3
|
36.0
|
26.6
|
45.9
|
353
|
定期巡回・随時対応型訪問介護看護
|
42.8
|
64.0
|
39.9
|
32.9
|
36.7
|
30.2
|
50.7
|
414
|
看護小規模多機能型居宅介護
|
42.9
|
61.4
|
47.1
|
29.9
|
43.1
|
25.9
|
45.0
|
529
|
地域密着型通所介護
|
37.9
|
53.9
|
44.1
|
26.6
|
37.4
|
23.4
|
40.0
|
1173
|
注:選択項目のうち「特にない」「その他」を除いて示している。色のある項目は、サービス種別で上位3項目。
出所:「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査(職員)
2.介護現場におけるハラスメント対策の必要性等
(1)ハラスメント対策の必要性
・ ハラスメントはいかなる場合でも認められるものではありません。この職業を選択し、日々業務に従事する職員を傷つける行為です。また、ハラスメントは、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、強制わいせつ罪等の刑事法の構成要件に該当しうる行為です。
・ しかし、介護現場でハラスメントを受けた職員や、ハラスメントによりけがや病気となった職員、仕事を辞めたいと思ったことのある職員は少なくない状況です。
・ また、事業者による対策は全体的には十分とは言えない状況ですが、事業者(事業主)は、労働契約法に定められる職員(労働者)に対する安全配慮義務等があることから、その責務として利用者・家族等からのハラスメントに対応する必要があります。
・ 一方、ハラスメントを行っている利用者・家族等の中には、著しい迷惑行為を行っていると認識していない人がいると考えられます。また、疾患、障害、生活困難などを抱えており、心身が不安定な人もいることにも留意する必要があります。しかし、ハラスメントの発生の有無は、受けた職員の感じ方や利用者等の性格・状態像等によって左右されるものではなく、客観的に発生の有無を捉え、再発防止策を講じることが必要です。
・ ハラスメント対策は介護職員を守るだけでなく、利用者にとっても介護サービスの継続的で円滑な利用にも繋がる重要な対策です。
(2)ハラスメント対策の基本的な考え方
・ 事業者は、ハラスメントを労働環境の確保・改善や安定的な事業運営のための課題と位置づけ、組織的・総合的にハラスメント対策を講じる必要があります。職員による利用者への虐待行為と同様、介護現場における権利侵害として捉えることが求められます。
・ また、職員による介護サービスの質的向上に向けて絶えず取り組む必要があります。例えば、適切なケア技術の習得に向けた研修、疾病や障害等に関する共同学習の機会の提供、個別ケースのケアや応対(コミュニケーション)の検証、組織的な虐待防止対策の推進等により、利用者・家族等が安心して介護サービスを受けることができるようにすることは、ハラスメントを含めた様々なトラブルの防止につながります。
・ 一方、個々の事業者だけで、原因や態様・程度が多様なハラスメントに適切かつ法令に即して対応することは困難な場合もあります。このため、医師等の他職種、法律の専門家、行政(保健所・地域包括支援センター)、警察、地域の事業者団体等とも必要に応じて連携しつつ、ハラスメントに毅然と取り組むことが必要です。
・ ハラスメントは、利用者や家族等の置かれている環境やこれまでの生活歴、職員と利用者・家族等との相性や関係性の状況など、様々な要素が絡み合うことがあります。このため、一律の方法では適切に対応できないケースもあります。ハラスメントが発生した場面、対応経過等について、できるだけ正確に事実を捉えた上で、事業所全体でよく議論し、ケースに沿った対策を立てていくことが重要となります。
3.ハラスメント対応として事業者が具体的に取り組むべきこと
(1)事業者自身として取り組むべきこと
◆基本的な取り組み・環境整備とPDCAサイクルの考え方の応用
<ハラスメントに対する事業者としての基本方針の決定>
・ 事業者として、ハラスメントに対する基本的な考え方やその対応について事業運営の基本方針として決定するとともに、それに基づいた取り組み等を行うことが重要です。具体的には、例えば、「ハラスメントは組織として許さない」「職員による虐待と職員へのハラスメントはどちらもあってはならない」といった考え方です。
<基本方針の職員、利用者及び家族等への周知>
・ こうした基本方針を職員と共有するとともに、職員が、管理者等に相談した場合に、誰に相談しても、事業者として同じ対応ができるように、事業者内での意識の統一が必要です。また、契約時等に利用者や家族等にも周知していくことが重要です。
<マニュアル等の作成・共有>
・ ハラスメントを未然に防止するための対応マニュアルの作成・共有、管理者等の役割の明確化、発生したハラスメントの対処方法等のルールの作成・共有などの取り組みや環境の整備を図っていくことが求められます。
・ 対応マニュアルの作成や対処方法等のルールの作成などにあたっては、職員の意見も取り入れつつ、適宜見直しや更新を行っていくことが重要です。そうした取り組みを通して、職員同士により、ハラスメントに対する課題や職場で感じていることなどを共有することで、ハラスメントへの意識や対応方法が向上し、働きやすい労働環境等につながると考えられます。
<報告・相談しやすい窓口の設置>
・ 明らかなハラスメントが発生した場合だけではなく、ハラスメントの可能性があると思われる場合も含め、職員が、報告・相談をしやすい窓口を設置し、その窓口を職員に周知することも重要です。
<介護保険サービスの業務範囲等へのしっかりとした理解と統一>
・ 事業者は、介護保険のサービスの範囲を理解し、その対応や説明方法の事業者内での統一を図るなどの取り組みを図ることも重要です。また、利用者及び家族等に対する契約範囲の理解を図り、契約範囲外のサービスが強要されないようにすることも重要です。
<PDCAサイクルの考え方を応用した対策等の更新>
・ 事業者として、ハラスメントの未然防止等に対し取り組み体制の構築や対策を実施している場合でも、ハラスメントが発生することが考えられます。このため、発生したハラスメント事案について、背景などをできるだけ把握し、それを踏まえて、体制や対策等を適宜見直していく、PDCAサイクルの考え方を応用していくことも重要です。
・ 特に、普段のサービス提供を通して、ハラスメントの現状やその対応などの事例を組織として蓄積し、それを次に活かしていくことが求められます。
注:PDCAサイクル:Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)を継続的に行い改善していくこと。
コラム:介護事業者の実践事例
~報告・対応のフローを事業所内で周知~
法人F(訪問看護)
この法人では各事業所にマニュアル(事故対応手順)が配備されています。この中にセクシュアル・ハラスメントの報告・対応フローも含まれており、入社時に必ず説明しています。(下図参照)
自分が被害にあった場合には、組織として対応してくれるという体制が明確に示されていると、職員も安心して働くことができます。
なお、以下のフローチャートのうち、加害者へのヒアリングには限界があることも十分に認識して対処をするなど、サービス種別や事業者の置かれている環境等も踏まえ、報告・対応フロー等を作成していくことが必要です。
◆利用者・家族等に対する周知
・ 利用者・家族等に対し、介護現場での職員へのハラスメントが全国的な問題になっていること、ハラスメントを防止することが、介護サービスを継続して円滑に利用できることに繋がることを伝えます。契約書や重要事項説明書により、どのようなことがハラスメントに当たるのか、ハラスメントが行われた際の対応方法、場合によっては契約解除になることを適切に伝えていくことが重要です。
・ 利用者・家族等への周知にあたっては、以下のような点を踏まえ、必要に応じて繰り返し行うことが必要です。
【周知にあたってのポイント】
・周知にあたっては、例えば「著しい迷惑行為」など、わかりやすい表現を用います。
・文書で渡すだけではなく、契約時に利用者や家族の前で読み上げて説明するなど、相手に伝わり、理解いただける方法で行います。
・利用者・家族等が安心してサービスを受けられるよう、虐待防止やケア技術の向上に努めていることも伝えます。
・利用者・家族等の状況によっては、繰り返し管理者等が伝えることも大切です。
・場合によっては、医師や介護支援専門員など第三者の協力も得ながら、繰り返し伝えていくことが重要です。
・ なお、以下に利用者・家族等への周知を実践している例をご紹介します。これらを実践している事業者は、これまでの取り組みや経験を踏まえ、外部の専門家と相談しながら、事業者の置かれている環境や利用者・家族等との関係性などに十分に配慮しながら、必要な文書を作成し、活用しているものです。
・ 例えば、ハラスメントの具体例を挙げることにより、利用者に不快感や不信感を生じさせる可能性もあります。また、これらの周知に時間を取ることによって、例えば契約書や重要事項説明書などの説明が、十分に行われないなどの懸念もあります。
・ このため、この実践事例は、今後の取り組みの参考としていただくものですが、全体的な対策を検討せずにこの資料だけをそのまま利用することなどがないように十分に注意してください。
コラム:介護事業者の実践事例
~やわらかい文章で事業所からのお願いとして、周知を行っている例~
法人D(訪問看護)
この法人では、ハラスメント対策に取り組むきっかけとして、近年、悪質クレームや職員への暴言がひどく、職員1人での訪問が困難になったことや、事業所内アンケートにおいて多くの職員が暴言、暴力をうけていた結果が分かり、マニュアル作成などの具体的な対策を開始しています。対策の一つとして、利用者・家族の方には契約書、重要事項説明書でもハラスメント行為の発生などにより、ケアを適切に提供できない状況になった場合には契約を解除することがあることを記載・説明しています。
しかしながら、それらの文章だけでサービス提供の初期段階である契約のタイミングで強く申し出ることは、これからの関係の構築に影響する可能性があるため得策ではありません。この事業者では、契約書とは別に「訪問看護ステーションからのお願い」としてイラストを用いて柔らかい雰囲気で表現しつつ、利用者・家族の方に配慮いただきたい事項を別途整理し、説明しています。信頼関係の構築に配慮しながら、しっかりと事業者としてのスタンスを示しています。
訪問看護ステーションからのお願い(一部抜粋)
利用者・家族との信頼関係のもとに、安全安心な環境で質の高いケアを提供できるよう以下の点についてご協力ください。
○職員に対する金品等の心付けはお断りしています。
職員がお茶やお菓子、お礼の品物等を受けとる事も事業所として禁止しております。また、金銭・貴重品等の管理にご協力ください。
○ペットをゲージへ入れる、リードにつなぐ等の協力をお願いします。
大切なペットを守るため、また、職員が安全にケアを行うためにも、訪問中はリードをつけていただくか、ゲージや居室以外の部屋へ保護するなどの配慮をお願いします。職員がペットにかまれた場合、治療費等のご相談をさせていただく場合がございます。
○暴言・暴力・ハラスメントは固くお断りします。
職員へのハラスメント等により、サービスの中断や契約を解除する場合があります。信頼関係を築くためにもご協力をお願いします。
コラム:介護事業者の実践事例
~具体例を記載して、わかりやすく伝えている例~
法人H(訪問介護)
この法人では毎年2~3名程度の利用者が訪問介護員に精神的暴力やセクシュアルハラスメントを行っていた。そこで職員向けの対策マニュアルの作成や教育を行うとともに、利用者・ご家族にも適切なサービス提供が行えるよう訪問介護においてできる範囲をご理解いただくとともに、弁護士と相談の上、契約書でも解除状況にあたる具体的なハラスメント事例を掲載しています。
契約書の中で、事業者側の解除権を定め、予告期間を定めたうえで解除ができる旨を明確にするとともに、契約書の別紙に解除する可能性がある行為を示すようにしています。ハラスメントに関する認識は、人によって認識が違うため、対象となる行為を具体化することで、事業者側と利用者の認識を揃える意味をもっています。
<契約を解除する場合の具体例の記載>
暴力又は乱暴な言動
・物を投げつける
・刃物を向ける、服を引きちぎる、手を払いのける
・怒鳴る、奇声、大声を発する など
セクシュアルハラスメント
・訪問介護従事者の体を触る、手を握る
・腕を引っ張り抱きしめる
・女性のヌード写真を見せる など
その他
・訪問介護従事者の自宅の住所や電話番号を何度も聞く
・ストーカー行為 など
◆相談しやすい職場づくり
・ ハラスメントを受けた場合、職員が自分だけで抱え込まずに、相談・報告できるような職場環境を日頃から意識して構築していくことが必要です。
・ 管理者等は、職員の変化を的確に把握できるように、日頃から職員との良好な関係を築いていくことが重要です。
・ そのためには、職場の風通しを良くするための取り組みを行うとともに、相談しやすい場を定期的に設けることなども必要です。
コラム:介護事業者の実践事例
~いつでも相談できる職場環境をつくり、自分で抱え込ませない~
法人A(特別養護老人ホーム)
この法人では人事考課の一環でチューター制度を導入しており、常勤・非常勤、経験年数に関わらず、全ての職員が先輩職員と1年間ペアとなり、日常的な指導や定期的な面談などを通じて、日頃の困りごとなども聞き取るようにしています(例:1年目職員と3年目職員、3年目職員と5年目職員など)。何かと自分で抱え込んでしまう職員が多く、また、若手の職員が管理職に直接報告・相談をすることはハードルが高いため、日常的に接点の多いチューターにいつでも相談できる環境を整備しています。更に、毎日の申し送りの際に、表情が曇っている職員がいれば、管理職から積極的に話を聴くようにするなど、自分で抱え込んでしまわないよう職場全体で解決に導いています。
◆利用者等に関する情報の収集とそれを踏まえた担当職員の配置・申送り
・ 新規の利用者について、介護支援専門員等を通して、利用者・家族等の情報を事業者として可能な範囲で適切に収集することが必要です。その情報に基づき、ハラスメント発生の可能性が高いと考えられる場合などには、担当職員の配置や申し送りなどを的確に行うことが求められます。
・ また、訪問系サービスでは、訪問先である利用者宅等において身体等の危険を回避するために速やかに外に出ることができる経路等を確認し、担当職員間で共有することも重要です。
◆発生した場合の初期対応
・ ハラスメントが発生した場合、職員の安全を第一に、即座に対応をすることが必要です。そのために、「初動マニュアル」のようなものを事業所として用意し、管理者が責任をもって職員とともに対応する体制を整備することも有効な対策です。
・ 発生時の対応としては、まずは職員の安全を図ることを第一とします。管理者等はハラスメントの状況を確認し、被害者である職員への対応、行為者への対応等を指示します。必要に応じて外部の関係者、例えば、介護支援専門員や地域包括支援センター、医師、行政、警察などに連絡・通報します。
・ 的確に状況を判断した上で、できる限り早く、職員はもとより、関係する利用者や家族等に対しても、対応していくことが求められます。早期に対応することは、状況のさらなる悪化を防ぐことにもなります。
◆発生後の対応
・ ハラスメントが発生した原因や経過をできるだけ明らかにすることに努めます。介護業務は利用者と職員が1対1となる場面が多いことから、ハラスメントかどうかの判断が難しいケースが数多く生じています。具体的には、例えば「言ってない」「やってない」等の事実の否定、「そんなつもりではない」等の言動の正当化、「受け止めの問題」「その前に失礼なことをした」等の責任転嫁等が発生するケースもあります。
・ また、被害者である職員に対する心のケアや従業上の配慮等もしっかりと行うことが必要です。
◆再発を防止するための対策
・ 二度三度と同じようなハラスメントが発生しないよう、再発防止の取り組みを行っていくことが重要です。
・ そのために、発生の原因(ハラスメントのリスク要因)をアセスメントし、それを踏まえた対策を実施することが重要です。
・ また、再発を防ぐため、あるいは再発した場合を考慮したマニュアルやフローチャートが適切に作成されているか、点検することも重要です。
◆管理者等への過度な負担の回避(組織としての対応)
・ ハラスメントが生じた場合には、管理者等が、ハラスメントの当事者と相対することになります。なかには、ハラスメントを生じたあるいは生じる懸念のある利用者や家族等を、管理者等が担当することになるケースもあるとの意見もあります。
・ このため、現場の管理者等にハラスメント対応で過度の負担がかかることのないよう、各事業を統括する法人の代表や法人本部が組織的に関与する体制を構築することが重要です。
◆利用者や家族等からの苦情に対する適切な対応との連携
・ 利用者や家族等からの苦情は、サービス提供の改善を図るうえで必要な情報でもあります。しかし、こうした苦情への対応を、当事者である担当の職員に任せることは、ハラスメントに結びつく懸念もあります。このため、苦情に対し、統一的に対応するための窓口や担当者を設置する場合は、ハラスメント対策の窓口等と連携して的確に対応していくことが重要です。
◆サービス種別や介護現場の状況を踏まえた対策の実施
・ 訪問系サービスでは、利用者や家族等の在宅で1対1や1対多の関係になることや週に多数回の訪問を行うこと等について精神的な負担を感じるケースがあります。特定の職員に過度な負担がかからないように、担当シフト作成時の配慮、担当者へのフォローなどを行うことが求められます。
・ 訪問系サービスでハラスメントが発生する懸念がある場合には、管理者等の同行、複数人の派遣などを検討し、臨機応変に対応することも求められます。
・ 一方、2人派遣については、利用者負担の増加等を理由に利用者が拒否するケースもあるため、家族等に説明して利用者等の理解を得ることも考えられます。
・ さらに、以下のような方法により、ハラスメントの未然防止を図ります。
<例示>
・利用者・家族等と、特定の職員との距離が近くなりすぎないように、担当者を固定化しないようにします。例えば、週に何日も訪問するケースでは、曜日により担当者を変更します。また、定期的に担当者を変更することも考えられます。
・訪問する職員に警報機付きブザーを支給し、いざというときに周囲に知らせるなど、自衛のための道具として活用できるようにします。
・利用者を複数で訪問する、管理者等が同行する、同性の職員を配置するなどの方法を、あらかじめ事業者として明確にし、その準備をしておきます。
・職員の個人的な情報(例:年齢、家族構成、趣味等)をむやみに利用者・家族等に伝えないことにより、業務上の必要な範囲以上に近しい距離とならないように注意します。
法人B(訪問介護等)
一人の利用者が1週間に複数回の訪問介護を利用している場合、ハラスメントへの予防として、同じ訪問介護員が入り続けることがないように配慮しています。また、例えば、訪問介護員が独身であるとわかると、恋愛対象と考える利用者がいるため、訪問介護員には、自身の家族構成等の個人情報を利用者に話さないように、研修等で伝えています。
新規の利用者の場合、事前に、介護支援専門員から利用者に関する情報を得て、対応する訪問介護員とのマッチングを丁寧に行うケースもあります。
(2)職員に対して取り組むべきこと
◆必要な情報の周知徹底
・ 職員に、事業者としてのハラスメントに対する基本的な考え方をわかりやすく、適切に伝えることが重要です。あわせて、事業者として整備している未然防止や発生時の対応等のマニュアル、設置している相談窓口などの情報などを伝えます。また、契約書や重要事項説明書の内容を十分に理解できるように伝えるとともに、特に、ハラスメントに関連した内容をどのように記載しているのか、その背景と目的などについても、的確に伝えることが重要です。
・ 日々の業務が忙しく、情報の周知に十分な時間を確保できない場合でも、職員の安全を確保する観点から日々の業務に優先して周知することが必要です。資料を配布するだけでなく、基本的には対面で説明を行い、質疑や意見交換を十分に行うことが重要です。
・ 事業者としての基本的な姿勢や取り組みを職員に伝えることにより、職員が安心して働ける環境であると感じられるようにすることが重要です。
◆介護保険サービスの業務範囲の適切な理解の促進
・ 職員が、介護保険サービスにおいて提供できるサービスの内容や範囲を、適切に理解し、どの職員でも利用者・家族等への対応や説明が同様にできるようにすることは、ハラスメントの未然防止のうえで重要と考えられます。
・ このため、職員には、介護保険サービスの仕組みや内容、特に提供できるサービスの範囲や要件、利用者・家族等への説明の仕方などについて、しっかり学ぶ機会を提供することが求められます。
◆職員への研修の実施、充実
・ 職員を対象としたハラスメントに関する研修を実施することが求められます。また、一過性に終わらせることなく、職員のハラスメントへの意識を喚起するためにも定期的に行っていくことが重要です。
・ 研修では、まず、ハラスメントは許さないこと及びハラスメントから職員自身を守ることが重要であることをしっかりと伝えます。その上で、未然防止策や対応策を共有します。事業者として統一的な対応をとるため、「リスク管理の取り組み」や「ハラスメント発生時の対応フロー・対応体制」等を作成し、丁寧に説明します。あわせて、ハラスメントを受けた場合には、自分だけで抱え込まずに、管理者等に報告・相談することも、しっかりと伝えることが必要です。
【研修の内容例】
・契約書や重要事項説明書の利用者への説明のための研修
・服装や身だしなみとして注意すべきこと
・職員個人の情報提供に関して注意すべきこと
・介護保険制度や契約の内容を超えたサービスは提供できないことと、利用者に説明するための研修
・利用者に対し説明をしたものの、十分に理解されていない場合の対応について
・利用者・家族等からの苦情、要望又は不満があった場合に、速やかに報告・相談すること、また、できるだけその出来事を客観的に記録すること
・ハラスメントを受けたと少しでも感じた場合に、速やかに報告・相談すること
・その他、利用者・家族等から理不尽な要求があった場合には適切に断る必要があること、その場合には速やかに報告・相談すること
・ また、ハラスメントの事例に関する情報の共有や疾病による影響などに関する知識を学ぶための研修を実施することも必要です。
・ 研修だけでは忘れてしまうことも少なくありません。そこで、例えば、ハラスメントに関する基本的事項を記載した持ち運び容易な名刺サイズのカードのようなものを作成するなど、職員が、思い出しやすいツールを準備しておくことも一つの方法です。
・ 研修に参加できなかった職員にも、例えば、研修を受けた職員から説明を受ける、研修を録画して時間的な余裕があるときに学習するなどの方法により、すべての職員がハラスメントに関する研修を受講できるように配慮することが必要です。
・ 特に、新入職の職員については、最初の研修プログラムの一つとして、ハラスメントについて知り、学ぶ機会を作ることが重要です。
◆職場でのハラスメントに関する話し合いの場の設置、定期的な開催
・ 研修の一環として、ハラスメントに関する話し合いの場を職場内に設置し、定期的に開催することも必要です。
・ 話し合いの場では、以下のような議論をした上で、ハラスメントは許されない行為であり、職員が我慢するべきものではないこと、ハラスメントを受けたらすぐに報告・相談のできる職場の雰囲気をつくっていくことが重要であることを、みんなで確認していくことが大切です。
【議論のポイントの例】
・介護現場におけるハラスメントとして、何が起こっているのか、共有します。
・利用者や家族等によるハラスメントをどの様に捉えるのか、意見交換をします。
◆職員のハラスメントの状況把握のための取り組み
・ ハラスメントの有無やその影響を把握するため、例えば、職員を対象にアンケートやストレスチェックなどを行うことも考えられます。
◆職員自らによるハラスメントの未然防止への点検等の機会の提供
・ ハラスメントの未然防止には、職員一人ひとりが、利用者・家族等に対し、的確な基本的対応をしっかりと行っていくことが重要です。
・ そのために、研修等を行う一方で、職員が自ら点検する、振り返ることのできる機会を提供することも重要です。
・ 本マニュアルでは、参考として「ハラスメント予防や対応のための職員のチェック項目」を示しています。職員が、自身の行動等を点検あるいは振り返るための機会として、こうした資料を職員に配布し、併せて管理者としての対応を改めて点検することも一つの方法です。
◆管理者等向け研修の実施、充実
・ 管理者等を対象としたハラスメントに関する研修を実施することが求められます。管理者等向け研修では、職員に対する未然防止のための指導内容やハラスメントが発生した場合の対応、ハラスメントを受けた職員への対応、利用者・家族等の事前の情報収集の必要性、疾病による影響などに関する専門的な知識の習得などの内容が考えられます。
・ また、関係団体、自治体等が実施するハラスメント防止に向けた研修に参加します。
法人C(訪問看護等)
暴力や暴言の原因が、疾患が原因で生じている行為かどうかを適切に判断することは重要です。このため、例えば、認知症の人への対応の仕方や、疾患による暴力、暴言の可能性について、カンファレンスを行うなどしています。
(3)関係者との連携に向けて取り組むべきこと
◆行政や他職種・関係機関との連携(情報共有や対策の検討機会の確保)
・ ハラスメントを繰り返す利用者や家族等に対し、特定の事業者のみがその影響を過度に受けることは望ましくありません。そのためにも、日頃から、関係者(行政(保健所含む)や地域包括支援センター、医師、介護支援専門員、他のサービス提供事業者など)と連携し、ハラスメントを繰り返す利用者・家族等に対応できる体制を築いておくことが重要です。
・ そのために、他職種・関係機関との協力関係を、常日頃から構築していくことが考えられます。
・ 利用者や家族等の情報については、個人情報の取扱いに留意しつつ、ハラスメントを繰り返すこと等の正当な理由の範囲で共有することも必要です。
・ 一方、ハラスメントが発生した世帯が複合的な課題を抱えている場合には、その状況や課題を行政等に連絡することが必要です。その上で、利用者・家族等にどのように対応・支援を進めていくのか、関係機関が連携して共通理解と方針を検討し、対応することが大切です。
・ 可能な場合には、ハラスメントにより対応が困難な事例などについて、例えば、地域ケア会議等でケースワークとして取り上げるように働きかけ、状況を共有していくことも考えられます。
ハラスメント行為を行う利用者・家族等は、介護サービスの利用者・家族等の一部にすぎません。しかし、ハラスメントは介護職員の尊厳や心身を傷つけるものであり、あってはならないことです。
だれもが安心して住み慣れた地域で安心して暮らし続けるためには、介護現場の職員が適切なケア技術を発揮し、利用者・家族等から尊重され、安心して働ける職場環境を構築することが不可欠です。
本マニュアルだけでなく、末尾に記載した文献も参考として、すべての介護サービス事業者やその関係者のハラスメントに対する理解が促進され、介護現場のハラスメントの防止と適切な対応に活用されることを願っています。
本マニュアルは、ハラスメント対策の第一歩であり、引き続き、介護事業者におけるハラスメント対策の実施が進むよう必要な検討を行っていく必要があります。また、介護事業者のハラスメント対策の実践が進む中で、その取り組みの知見のフィードバックを得て、マニュアル自体の改善を図っていくことも必要です。
参考1:ハラスメント予防や対応のための職員のチェック項目
<サービスを開始する前におけるチェック項目>
〇施設・事業所のハラスメントに関する基本方針を知っていますか。
〇施設・事業所のハラスメントに関するマニュアルを理解していますか。
〇施設・事業所のハラスメントに関する相談窓口・体制を理解していますか。
〇施設・事業所のハラスメントに関する研修を受けていますか。
〇介護保険制度におけるサービスの範囲及び介護契約書・重要事項説明書等の内容(ハラスメントに関わる事項を含む。)について理解していますか。事業所内で説明の仕方について研修を受けていますか。
〇職場において、ハラスメントに関する話し合いの場が設置され、定期的に出席していますか。
〇ハラスメントの未然防止のための点検・振り返りを、自ら、定期的に行っていますか。
<サービスを開始するにあたってのチェック項目>
〇利用者・家族等の病状等の情報を共有し、その病状等の特徴を理解していますか。
〇利用者・家族等に係るハラスメントのリスクを把握し、理解していますか。
〇介護保険制度におけるサービスの範囲及び介護契約書・重要事項説明書等の内容(ハラスメントに関わる事項を含む。)について理解していますか。求められた時に、利用者・家族等に説明できていますか。
〇介護保険制度又は契約の内容を超えるサービスを求められた際に、提供できないこと及びその理由を利用者・家族等に説明できていますか。
〇上記の説明について、利用者・家族等から理解を得られていない可能性がある場合、速やかに施設・事業所に報告・相談していますか。
〇他の施設・事業所のサービス担当者と連携をとっていますか。
<サービスを開始した後のチェック項目>
〇サービスを提供するにあたり、服装や身だしなみがサービスに適したものになっていますか。
〇利用者・家族に対して相手を尊重しつつ業務を行うこと、今までの生活をできるだけ続けられるように自立支援を意識することなど、基本的な対応方法を日頃から心がけていますか。
〇職員個人の情報の提供を、利用者・家族等から求められても断っていますか。
〇介護保険制度又は介護契約の内容を超えるサービスを求められた際に、提供できないこと及びその理由を利用者・家族等に説明できていますか。
〇上記の説明について、利用者・家族等から理解を得られていない可能性がある場合、速やかに施設・事業所に報告・相談していますか。
〇利用者・家族等から苦情、要望又は不満があった場合は、速やかに施設・事業所に報告していますか。
〇ハラスメントを受けたと少しでも感じた場合において、速やかに施設・事業所に報告・相談していますか。また、その出来事を客観的に記録していますか。
〇他の施設・事業所のサービス担当者と連携をとっていますか。
〇その他、利用者・家族からの理不尽な要求があった場合に、適切に、お断りができていますか。その場合、そうした事実を、施設・事業所に報告・相談していますか。
以上
参考2:介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業実態調査の概要
(1)実施概要
①目的
ハラスメント対策マニュアルの作成にあたり、介護現場におけるハラスメントの実態及びハラスメント対策の取り組み、課題について把握する。
②調査の対象等
訪問系(訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護)、通所系(通所介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護)、居宅介護支援事業所、入所系(介護老人福祉施設、特定施設入居者生活介護)を対象にサービス種別ごとに無作為抽出し、全体で1万件の施設・事業所を対象に実施しました。
そのうち、「管理者票」については、管理者等(介護現場でのハラスメントの実態や取り組みについて把握している方)を対象に実施しました。
また、「職員票」については、勤務する直接処遇職員(介護職員等、利用者のケアに直接関わる職員)の全員(配布は管理者等に依頼)を対象に実施しました。
③実施方法
調査対象となる施設・事業所に調査の依頼を郵送し、WEBサイト上で回答する方式としました。
(2)回収状況
管理者票 【発送数】10,000施設・事業所
【回収数】 2,155施設・事業所
【回収率】 21.6%
職員票 【回収数】10,112人
※職員票の配布は、管理者票の配布先である施設・事業所の管理者等に依頼しているため、配布数が確認できていない。
参考3:介護現場におけるハラスメントに関連する参考文献等
・一般社団法人全国訪問看護事業協会編著/暴力・ハラスメントの予防と対応 メディカ出版
・公益社団法人兵庫県看護協会、兵庫県著/訪問看護師・訪問介護員が受ける暴力等対策マニュアル
・全国訪問看護事業協会編/訪問看護の安全対策:manualの作成とヒヤリハット報告書の活用.第3版 日本看護協会出版会,2017.
・全国訪問看護事業協会編/訪問看護ステーションの災害対策:マニュアル作成と実際の対応.日本看護協会出版会,2009.
・宮崎和加子編著/在宅ケアリスクマネジメントマニュアル.第2版. 日本看護協会出版会,2016.
・日本看護協会/保健医療福祉施設における暴力対策指針―看護者のために―.
・日本看護協会/看護職の健康と安全に配慮した労働安全衛生ガイドライン:ヘルシーワークプレイス(健康で安全な職場)を目指して.
・厚生労働省/パワーハラスメント対策導入マニュアル:予防から事後対応までサポートガイド.第3版.
・厚生労働省/事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!
・ホームページ「在宅ケアを受ける患者・家族からの暴力・ハラスメント防止方策の構築」
ハラスメント防止方策として、啓発ポスターの例のほか、諸外国での暴力対策やリスクアセスメントツール等が紹介されています。
平成30年度 老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)
介護現場におけるハラスメント対策マニュアル
平成31(2019)年3月発行
発行 株式会社三菱総合研究所 ヘルスケア・ウェルネス事業本部
〒100-8141 東京都千代田区永田町2-10-3
TEL 03(6858)0503 FAX 03(5157)2143